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Host Story

地方がもつ良さを伝える、ハブになりたい。

Shibamata FU-TEN Bed & Local(柴又ふーてん ベッド アンド ローカル)

2017年6月1日掲載

今回の舞台は東京・葛飾区の柴又。いわずと知れた、日本の名画『男はつらいよ』のメインロケーションとなった場所だ。走行距離がわずか2.5kmしかない京成金町線の中間、柴又駅を降りると、同作品の主人公の寅さんを象った「フーテンの寅像」が立ち、少し行けば、古くから続く商店が並ぶ柴又帝釈天の参道へと繋がる。賑やかではあるが、それは都心の喧騒とはまったく性質が異なる。例えるならば、田舎町のお祭りに訪れたような感覚だ。どこか懐かしく、穏やか。昔ながらの空気感が漂い、タイムスリップしてきたかのようにも思える。しかし、柴又を含む都心からわずかに離れた地域は共通して、高齢化と人口減少、自治体が運営するいわゆる遊休施設(≒使われなくなった施設)の増加という問題を抱えている。住宅地をつくりベッドタウン化するところも増えているが、そうすれば、以前の趣、景観は失われてしまう。

遊休施設を維持管理するにも、取り壊すにも相当なお金がかかり、自治体にとってはどちらの選択肢を取ったとしても大きな痛手になる。ベストは前者を選び、新たな人を呼び込めるよう、役割を変えることだ。R.projectという組織は、この問題に10年も前から着目し、過小評価されている地方及び郊外の未活用不動産を合宿所や宿泊施設として再活用する試みを行っている。2017年3月18日にオープンしたばかりのShibamata FU-TEN Bed and Local(以下、FU-TEN)もその事業の一環で、元々、葛飾区の職員寮だった建物をリノベーションし、ホステル/Airbnb(エアビーアンドビー)として貸し出している。R.projectで代表取締役を務める丹埜倫さんはこう語る。

「身近にあるものが持っているはずのポテンシャルを引き出せず、老朽化させてしまうのは非常にもったいない。我々が取り組んでいるのは、固定概念に縛られず、建物とその周辺地域が持つ新しい可能性を見出すこと。Airbnb(エアビーアンドビー)と提携したのも、宿じゃないものが宿になるという考え方に共感したからなんです。私の知り合いの外国人が、Airbnbが日本に導入された当初くらいに、千駄木のはずれで一軒家を貸していたんです。都心からはずいぶんと離れた場所なのに、予約がひっきりなしにくると聞き、その頃から興味を抱きました」

R.projectが事業をはじめたのは、2015年に日本橋にある古い問屋ビルを改装しホステルを開業したことが皮切りだった。FU-TENのプロジェクトもほぼ同時期にスタートし、これからはR.projectにとって中核的な存在になっていくそうだ。

「柴又は素晴らしい景色と文化、そして寅さんや柴又帝釈天といった象徴があるため、若い人や外国人観光客を呼び込める十二分な素養を持っているはず。しかし、我々が運営をしている他の施設に関しては、柴又のように個性的な環境がある場所ばかりではないので、魅力が伝わりにくいんです。FU-TENは宿以上に機能すると考えていて、ただ泊まってもらうだけでなく、ここがハブになり、東京以外の地方の良さももち帰ってもらう機会もつくることができたらと計画しているところなんです」

FU-TENは4階建てで、現在、貸し出しているのは3階まで。4階に関しては、今後、アーティストやクリエイターたちに部屋を仕立ててもらいAirbnb(エアビーアンドビー)で展開していく予定なのだという。

宿は必ずしも人が泊まるだけの場所とは限らない。人や情報が集まり、発信する拠点となる可能性も秘めているのだ。フラッと旅に出て、フラッと戻ってくる。自由気ままな生き方をした寅さんの家のように、FU-TEN、そして柴又そのものが、多くの人にとって、たまに帰ってきたくなる第二の故郷となることを期待したい。

構造や扉、壁のテクスチャーなど、元々のものがもつ特徴が随所に残されている

建物の広さはおよそ1680平米。総部屋数33室、最大宿泊数74名という大規模なホステルだ。大がかりなリノベーションが行われているが、構造や扉、壁のテクスチャーなど、元々のものがもつ特徴が随所に残されている。

踊り場の壁に描かれた可愛らしいデザインのサイン

方向を変えて見ると廊下に深い奥行があることがよくわかる。踊り場の壁に描かれた可愛らしいデザインのサインが効いている。ちなみに、設計・デザインは数多くのリノベーション物件を手掛けているOpenAと塚越宮下設計という建築士事務所が担当した。

4名まで利用可能な客室

4名まで利用可能な客室。限りなくシンプルだが、日本らしさを少しでも感じてもらえるよう畳敷きの床をつくるなど、和の要素を取り入れた点がこだわった部分だという。窓からは日光が目いっぱい挿し込んでくるので、爽やかな朝が迎えられる。

テーブルとチェアが並ぶ、広々としたラウンジスペース

テーブルとチェアが並ぶ、広々としたラウンジスペース。食器や家電など、充実した設備が用意されている共用キッチンと直結している。この場で新しい出会いが生まれそうだ。

FU-TENの外観

FU-TENの外観。職員寮と一聴すると、団地のような無機質な建物を思い浮かべるが、段々になっていたり、所々にカーブが用いられるなど、構造がユニークだ。ラウンジ/キッチンから外に出ると緑が広がる中庭になっている。

R.project代表取締役の丹埜倫さん

R.project代表取締役の丹埜倫さん。東京出身だが、幼い頃からお父さんが所有していた千葉県いすみ市の別宅で畑の開墾を手伝うなど、都会と田舎を行き来していた過去が現在のルーツとしてあると語ってくれた。

柴又帝釈天へと続く参道

江戸期から段々と築かれ、明治期には現在に近い形になったという柴又帝釈天へと続く参道。この地域に住む人、観光客が行き交い、日々賑わいを見せている。ここから帝釈天を通り過ぎ、歩いておよそ5分のところにFU-TENは位置している。

おすすめスポット

  • 柴又帝釈天

    柴又帝釈天

    映画『男はつらいよ』でも幾度となく登場する帝釈天は日蓮宗寺院だが、宗派に関わらず誰でもお参りすることができる開かれたお寺。江戸の庶民が心の癒しを求めに多くの参拝者が訪れ、次第に参道が形成された。ここに草だんごや川魚料理が名物として出されるようになり、行楽地として栄えた背景があり、当時の風情が今でも残されている。

    住所:東京都葛飾区柴又7-10-3
    TEL:03-3657-2886

  • 髙木屋老舗

    髙木屋老舗

    明治、大正期に建てられた木造瓦ぶきのお団子、おせんべい屋さん。参道を挟み、片方は販売店、もう片方は喫茶店になっている。名物は北海道産の小豆を使った優しい甘さのあんこが合わさった、しっかりとした弾力がある筑波山麓のよもぎ入りの草だんご。和菓子づくり体験も行っている。

    住所:東京都葛飾区柴又7-7-4
    TEL:03-3657-3136

  • ピッツェリア ルナ エ ドルチェ

    ピッツェリア ルナ エ ドルチェ

    柴又では珍しい本格的なピッツァが食べられる、ミシュランガイド2017にも掲載されたお店。フランスで修行を積んだという店主が丹精込めてつくる、イタリア・ナポリ由来のモチモチした食感の生地が最大の特徴。店内はカジュアルな雰囲気で、周辺に住む女性や家族連れに愛される人気店だ。

    住所:東京都葛飾区柴又7-1-10 1F
    TEL:03-6657-9244

  • この記事は住宅宿泊事業法施行前の2018年6月14日以前の記事となります。
    法令がどのように適用されるかについては、個別に法律の専門家や最寄りの地方自治体の窓口等にご相談頂きますようお願いします。

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