「私たちの家を利用して下さる方は品が良い方ばかりなんです」。Sakamotoさんはそう前置きした上で、これまでのゲストに対して抱いた印象を語ってくれた。
「皆さん一様に、全く物音を立てずに過ごすんですね。廊下を歩いている足音すら分からないほどに。荷物はピシッと並べ、チェックアウトの際には元々の状態に完璧に戻して帰る。こちらが恥ずかしくなるくらい、彼らは礼儀を重んじるのです」。
Sakamotoさんがホストを始めたのは昨年の年始。「きっかけは息子の勧め、パソコンが不得意なためゲストとのやり取りは家内、自分は招き入れるだけ」とSakamotoさんははにかむが「ゲストから学ぶことはたくさんある」と、やりがいを感じている様子だ。
海外の文化に憧れ、東京の大学生だった頃にはアメリカを横断したこともあったと言うSakamotoさん。それから広島に戻り、家業に邁進している間に約40年が経過。ホストは偶然にも新たな学びの契機へと結びついた。
「ここに来るゲストは日本のことをよく知っているし、日本に対するリスペクトがある。日本人が失いかけているものをもっているんですね。それを逆に習いたいと私は思っています。恥にならないよう、常に英語で書かれた広島案内の本を携帯するようにしたり、彼らのリスティングに対するレビューを読むなどして、勉強に活用しています」。
たかがレビューかもしれないが、されどレビューだ。ホストが真摯に対応し、互いのことをよく知っていなければきちんとしたフィードバックはないと言える。ゲストからのお返しはメッセージに表れ、それがSakamotoさんの新たな学びの活力となっている。
Sakamotoさんのリスティングは、広島駅から電車一本で辿り着ける天神川駅付近にある。この立派な門をバックに記念撮影をすることが恒例となっているそうだ。
積極的にコミュニケーションを図るSakamotoさんとそれを裏で支える奥様の名コンビを慕うゲストは多い。
掃除が行き届いている自宅の内観。ゲストはこの廊下を物音ひとつ立てずにすり足で歩くと言う。Sakamotoさんはその様を「忍者のよう」と例える。
宿泊スペースとして掲載している部屋のひとつ。あらゆる家具がきちんと整頓されている美しい空間だ。やはり引き戸や紙、畳といった日本独特の物を好むゲストが多いとのこと。
ゲストが訪れた際には家の中を説明しながら回る。毎日欠かさず勉強しているというSakamotoさんの英語力は見事としか言いようがない。
各部屋に設けられている扉は雪見障子(下半分だけ上げ下げすることができる)になっている。その先に見える庭の緑も手伝い、爽やかな目覚めを迎えられるとゲストから好評を得ていると言う。
「広島は特に何かがあるわけではないですが、残しておかなければならないものがある」。ゲストの多くは明確な目的をもってやってくるとSakamotoさんは言う。それは過去の戦争を知ること。丹下健三設計の建築が鎮座するこの場所で、それを垣間見ることができる。
「大聖院という真言宗のお寺が宮島にあるのですが、そこに訪れたゲストが非常に感心していました。彼らが戻ってきたのは夜中で『大聖院がナンバー1だった』と興奮していたことを覚えています。ゲストたちの日本に来る意識が非常に高いことを痛感しましたね」。
広島電鉄の八丁堀駅から徒歩5分ほどの場所にある、様々なお好み焼き屋さんが一挙に集合しているビル。Sakamotoさん曰く「広島焼きを目的に来るゲストもいる」とのこと。1日ですべてまわるのは到底難しそうだが、テーマパーク感覚で楽しめるスポットだ。
宿泊スペースとして掲載している部屋は、これまで20年くらい使っていなかったんです。それで、息子がお正月休みで帰省した時に、使わない部屋をそのままにしておくのはもったいないからと勧められたのがきっかけです。お酒の席での勢いで、手続きも息子に任せてはじめてしまったのですが、今となっては非常に有効的な使い方だと思っています。
ゲストとコミュニケーションを取れることはやはり楽しいですよ。ホストをはじめたことで改めて英語を勉強するようになりましたし、脳が活性化されていると感じています。
とある日本在住のイタリア人のゲストは、ご両親をわざわざイタリアから呼んで広島や四国を旅行して回っていたんです。素晴らしいことですね、とそのご両親に伝えたら非常に誇らしげでした。今まで育ててくれた恩返しができる彼の人柄には本当に感心しました。
ゲストから学習すべきことはたくさんあります。それは言葉だけでなく、所作や人に対する振る舞い。今こそ、外国の文化をしっかりと学び、取り入れることが重要だと思います。皆さんもそんな学びのチャンスを掴んでみませんか。