四国4県と、その周辺の都市を結ぶ鉄道路線を有するJR四国。鉄道以外にも、バス、ホテルなど幅広く事業を展開するなかで、四国への観光誘客の促進や地域と連携した観光需要の創出を目指し、2018年11月にAirbnbと包括的業務提携を締結した。そして今回、この業務提携に対する想いや今後の展望について、常務取締役事業開発本部長の松木裕之さんに話を伺った。
そのきっかけとなったのが、JR四国が掲げる新たな宿泊施設ブランド「4S STAY(フォース ステイ)」の四国での第一号のオープンだ。
「第一号がオープンした三好市池田町は、祖谷や大歩危といった、外国人旅行者に人気のエリアに近く、しかも四国の真ん中あたりに位置するため、4県をめぐる拠点としても適したまちといえます。『4S STAY 阿波池田駅前』として生まれ変わった建物は、実はもともとお寿司屋さんだったんです。今回のプロジェクトに関しては建物のオーナーさんも協力的で、何より運営に対して力を貸してくださる地元企業さんと、地域を盛り上げたいという想いが一致したことが、まずは阿波池田にオープンした理由として大きかったですね」
四国4県にシティホテルや宿泊特化型ホテル、リゾートホテルを運営しているJR四国が、簡易宿泊「4S STAY」を立ち上げたのは、インバウンドの急増により多様な宿泊施設を提供する必要があったことにある。
そして、さらには“体験”を通して地域の魅力をより多くの旅行者に知ってもらうことで、四国全体の地域観光を盛り上げるとともに、地方経済の活性化を目指しているのだ。
「我々は地域での知名度は高くとも、インバウンドに向けての発信力はまだまだです。そこで、プラットフォームとして世界への絶大な発信力を誇るAirbnbにご協力いただきながら、さらなる宿泊施設や体験プログラムの開発を進めていきたいと思っています」
「阿波池田の駅前にあるアーケード街は、以前は夜になると暗くて、女性ひとりだと歩くのが怖いくらいだったそうです。それが、『4S STAY 阿波池田駅前』の1階の飲食店にゲストや地元の方が集まることで、まちが明るくなったという声を聞きました。そこで生まれるゲストと地元の方の交流も、他ではできない経験ですよね」
周辺には銭湯や焼肉店、地域の人々に利用されてきた家政専門学校や酒蔵もあり、観光名所に訪れるだけでなく、地域の人々と交流しながら“暮らすように旅する”経験ができる機会もそこかしこに存在している。
これから着物の着付けや茶道、酒蔵での日本酒づくり体験など、多彩な体験プログラムを提案していく予定だという。それらの体験を通して、未だ知られていない地域の魅力を掘り起こして、広めていこうという狙いもある。
「たくさんの人が四国を周遊してくださることを願いつつ、阿波池田以外にも旅の拠点となり得るまちに『4S STAY』を増やしていきたいと思っています。ゆくゆくは、各拠点を旅の軸にして、周遊ルートを確立したいです。そうしてまちの魅力を磨き上げて、四国全域に観光のネットワークを広げたいですね」
インバウンドに向けての提案としては、訪日外国人が最も多い、高松での展開が重要と見ているが、それが最優先というわけではない。四国全体を盛り上げるためには、やはり全域を視野に入れ、同時進行で進めていく必要がある。
「大切なのは、地域の人々が一緒になって協力してくださること、想いを同じくして運営に携わってくださる方がいること、そして、宿泊施設として利用するのに適した物件があることです。我々は大地に線路を巡らせ、根を張っている企業です。他のどこへも行きません。四国の価値を上げることが、我々の存在意義だと思っています」
四国旅客鉄道(JR四国)
1987年に国鉄から旅客鉄道事業を引き継いで発足したJR旅客鉄道会社のひとつ。本社は香川県高松市。鉄道のほか、ホテルやマンション、高齢者向け事業にも参入している。
4S STAY 阿波池田駅前
2018年11月、阿波池田駅近くにオープンした簡易宿泊施設。和室の大部屋が中心で、1部屋4〜7人での宿泊が可能。列車のシートやブレーキハンドルなどの廃材を利用していることでも話題。