人知れず眠ったままの空き家、見るも無惨に朽ち果てて廃墟と化した物件すらも、その手にかかればたちまち予約の取れない人気民泊に生まれ変わる……そんな宿をゲストに喜んでもらうことが何よりも楽しいと語る、羽田徹さん。とりわけ地方で増えている放置物件を再生させ、廃れた別荘地をも復活させる敏腕プロデューサーとして活躍し、今では年商7000万円超えという人気スーパーホストに。「民泊は生き甲斐、人生そのもの」と語る羽田さんのホストストーリー、廃墟物件を見事に蘇らせる魔法の秘密、そして民泊ビジネスに込めた思いを伺った。
今や多くの塾生にもノウハウを指導する、別荘民泊プロデューサーとして活躍する羽田さんだが、その経歴は実に多才。現在も民泊ホストは副業の一つ、本業は大手各社の企業研修や新人研修、志師塾などで指導するトップ講師として多忙な日々を送る。講師業で独立するまでは、1996年からラジオDJとして10年近く、FMや文化放送などで数々の番組パーソナリティを務め、2005年からは投資用不動産のトップ営業マン、メガネメーカーの営業・取締役にも転身。その後、ラジオDJとして磨き上げた話術や人を惹きつけるコミュニケーション力、ビジネスの世界で培った営業力や組織マネジメント力を生かし、講師、ナビゲーター、ファシリテーターとして幅広く活躍している。そんな羽田さんが民泊に興味を引かれ始めたのは、2017年のこと。
「ラジオDJ時代から一棟マンションの賃貸経営を営み、その後も投資用不動産の営業をやっていたので、以前から民泊には興味がありました。東京で民泊が盛り上がっているのも知っていて、講師業で独立した2017年に、自分も副業としてやってみようと思ったのが最初です。僕は神奈川県在住ですが、まずは田舎に別荘を持ちがてら民泊もできたらと思い、地方の物件を見て回りました。そのとき河口湖や山中湖、伊豆半島あたりを回ったんですが、そこでかつてバブル時代の名残りを思わせるような、別荘地の荒れ果てた姿を目の当たりにしたんです。思いもよらない惨状に愕然としつつ、多くは放置物件なので売値は安く、数百万円くらいで購入できるものばかり。土地としての魅力は十分あるのにこのまま廃れていくのはもったいない、なんとかできないかな、とそのとき強く感じて。まずは自宅から1時間ちょっと、富士山麓で山中湖にほど近い山梨県の都留市にいいログハウスを見つけたので試しに購入し、民泊としてオープンしたんです」
2018年1月、山梨県都留市で始めた1軒目は薪ストーブ付き、7m近い天井の吹き抜けや空間の心地よさが自慢の、羽田さんお気に入りのログハウス。宿泊費は一人一泊5,000円前後の料金設定から始めて、本業の片手間で1年間、試験的に民泊運営をスタートした。
「正直、当時やっていた賃貸マンションよりもパフォーマンスが良くて、1年目で年間250万円の売り上げが出ました。民泊1軒でここまで売り上げが出るとは思っていなかったので驚いて、これは賃貸マンションより面白そうだな思い、マンションを売却。その売却益を資金に、2019~2020年の間に都留市でもう1軒と、栃木県の那須エリアに2軒オープンし、民泊事業を本格的にスタートしました。2020年からはコロナ禍で客足が遠のいた時期もありましたが、海外どころか国内旅行にも出かけられないなか、一棟貸しの民泊ならコロナ禍でもご家族で安心して滞在できるとあって、国内ゲストがたくさん泊まりに来てくれたんです。Airbnbでレビューをくれたとあるご家族は、コロナ禍でどこにも出かけられず気持ちは沈み、子供さんも元気がなかったところ、久しぶりの家族旅行で僕の民泊に泊まってくれたそうなんですが、『大はしゃぎで大自然やハンモックを楽しんで、子供のあんな笑顔を見たのは久しぶり! 来て良かったです』とコメントをくれて。僕もとても嬉しかったですね」
一棟貸しならではの魅力が功を奏して、未曾有のピンチもチャンスに。それだけでなく、コロナ禍中は売り物件が増えた上に安値で買えるとあって、羽田さんは「今が買いどき!」とばかりに2020~2023年の間に新たに8軒をオープン。数年もすれば観光客数も復活するだろうという先見の明にも導かれ、右肩上がりに物件数を増やしていった。とはいえ、本業も多忙ななかで10軒以上の民泊を運営管理するとなると、一筋縄では行かないこともあったのでは?
「まさにその通りで、一番大変だったのは本業の仕事中に、ゲストからの電話や問い合わせ対応に追われること。ときには夜中にゲストから電話がかかってきて、宿で天ぷらを揚げていたら火災が発生、水をかけたら爆発し、最後は消化器で火災は収まったものの部屋がめちゃくちゃになったと……。そうしたトラブル対応も含め、最初の3~4年はすべて自分でこなしてたので、酷いときは発狂しそうになったくらい(笑)。4軒目まで増やした時点で1人では無理だと感じ、一部を管理会社に委託、業務の自動システム化も導入し始めて、ゲスト対応もスタッフと手分けする体制に。おかげで今は本業に集中できるようになりました。Airbnbには一軒目から登録していますが、そのシステムやアプリの使いやすさにもとても助けられています。レビューの投稿率も高く、喜びの声やゲストの信頼が増えれば増えるほど、予約も入りやすく単価も上げられます。うちのお客様は9割以上がAirbnbから来てくれる方々、アプリでゲストと密にコミュニケーションができるので、ホストとしてのやりがいや実感も大きく感じられています」
業務のシステム化やサポート体制に助けられ、現在は13軒の自社物件、6軒の管理物件を手がけ、来年以降も続々とオープンする予定。そのどれもが山梨や栃木、長野や伊豆半島といった、東京都心から車で2時間半圏内に的を絞っているのもこだわりの一つ。そこでは廃墟物件の再生だけでなく、その土地ならではの魅力発掘までも視野に入れている。
「とくにコロナ禍以降は田舎の魅力が再注目されていますが、アクセスの良さは重要だと感じるので、僕は東京から2時間半圏内をターゲットにしています。どの物件も売り上げは毎年上がっていて、1年目に250万円だった一軒目も、今では700万円近く。都留市で2軒目に立ち上げた民泊も、今は年間900万円前後の売り上げが出ています。13軒の自社物件のうち売り上げ率No.1、No.2は都留と那須の民泊なんですが、実は両方とも100万円で購入した物件なんですよ! 最初はボロボロに朽ち果てて、誰も買い手がつかない状態だったのを100万円で購入し、800万円近くかけてフルリフォームしました。都留市に最近オープンしたばかりの宿も、もともと機織り工場だったところを大幅に改装したんですが、工事職人さんに『こんな建物を宿に?』と言われるくらいの廃墟。周りは耕作放棄地で雑草に埋もれ、普通の人からすれば何の魅力も感じられない物件でした。それでも、僕があれこれリフォーム後の姿を思い描いて改装してもらったら、結果的に職人さんも『自分たちで造っておいてなんだけど、めちゃくちゃカッコいい宿になったね!』と大絶賛。周りの放棄地も活かしたくて、今はヤギを飼い始めました。ヤギは雑草を食べてくれて、その排泄物が大地の肥やしになり、肥沃な畑に再生できるんですよ。家族連れや子供さんたちもヤギとの戯れを楽しんでくれて、人気の宿になっています」
「普通なら誰も近寄らないような物件も、僕はリフォーム後の姿を想像してニコニコしながら内見するので、不動産屋さんには気持ち悪がられますね(笑)。多くの人は物件の悪いところばかりに目が向いて、ここが汚いとかあそこに雨じみがあるとか、水回りが良くないとか。でもそうした不具合は、後でいくらでも直せます。それより、見た目がどんなに悪くても、間取りや空間の心地よさがあればその物件の魅力になりますし、リビングから富士山の絶景がドーンと見渡せる物件なんかは、そのロケーション自体に価値がある。そういう魅力を見つけて、これならいい宿にできるぞと感じたら、あとの欠点はリフォームで直せばいい。一番はその土地、その物件の良さをいかに引き出して、見捨てられた物件をどう再生させて人気宿にするか……そこに一番のやりがいと面白さを感じています」
「まさかあの物件が、こんな人気宿に!?」と誰もが驚くほどの劇的ビフォーアフター……その楽しさを、声を弾ませながら語ってくれる羽田さん。そうして今では本業の講師業よりも民泊業のほうが儲かるまでに成功しているそうだが、まだまだ民泊ビジネスに惹かれる理由は、そうした利益云々を超えたところにあると続ける。
「以前やっていた不動産投資やマンション賃貸に比べて、民泊のほうが利益率や今後の将来性が高いのもありますが、民泊は何よりも自分がやっていて楽しい、これに尽きるんですよ! ある資産家さんが民泊を始めたいと、僕のところに学びに来てくれたんですが、『賃貸物件も何十軒とお持ちでお金も十分あるのに、なぜわざわざ民泊を?』と聞いてみたんです。すると、『羽田さんがあまりにも楽しそうだったから、儲け云々ではなく、自分も民泊をやってみたいと思って!』という答えが返ってきて。そう言われてみれば確かに、薪ストーブをはじめ、自分のやりたいことや趣味を全部詰め込んで、何よりも僕自身が楽しんで、この先もまだまだやりたいことはたくさんあります。本業を引退した後は、民泊を運営しながら観光案内をしたり、トゥクトゥクでゲストを山中湖へ連れていったり、ヤギだけでなくいろんな動物を飼って、子供たちも喜ぶちょっとした動物王国を作りたい! そう思うと、民泊って僕のライフワーク、人生そのものだなと。今は外国人の民泊利用者も30%前後ですが、10年後、20年後とどんどん利用者数が増えていくことを考えると、これからの盛り上がりが楽しみですね」
民泊ホストとしての実績や経験を積み重ねて6年、羽田さんは本格的に規模を拡大し始めた2019年から、自身のノウハウを「薪ストーブのある別荘民泊体験記」というブログでも書き綴っている。2023年からはX(旧Twitter)でも民泊運営のリアルを随時発信し、「別荘民泊アカデミー」も主宰。民泊プロデューサーとしてはもちろん、人を惹きつける話し方のプロとして、人情味あふれる人柄も相まって、羽田さんのもとには民泊を始めたい人たちが大勢集まっている。
「ブログは元々ゲスト向けの情報を発信していたんですが、民泊の始め方や運営術、民泊事件簿など、ホスト側のリアルな実態や裏事情、苦労話なんかを紹介し始めたところ読者が増え、人気ブログになったんです。それから僕のホスト経験や知識を発信するようになって。僕自身が最初に立ち上げたときは、そうした情報がなくとても苦労して、知識なく始めてしまうと失敗したり間違った方向に進んでしまうことも実感。なので自分の講師業を活かしつつ、民泊についても知識やノウハウを型化して教え、背中を押すのが自分の役割かなと思い、X(旧Twitter)とアカデミー塾を始めることにしました」
後に続くホストを導きながら、これからは都会だけでなく田舎での民泊を盛り上げ、地方創生に貢献したいという夢も秘めている。それは自身が初めて立ち上げた山梨県都留市で、土地そのものに眠る魅力まで花開かせる、その喜びややりがいを感じたことが原点になっている。
「都留市で民泊を始めるとき、『こんな何もないところで宿を始めたって、お客さん来ないよ』と地元の人たちに口を揃えて言われたんです。当時は市内に民泊どころか宿自体も数えるほどしかなくて、それでも試しに一軒目を立ち上げて通ううちに、アクセスも良くて自然が豊か、そんな都留市をどんどん好きになっていきました。富士五湖などの観光地も近くて登山も楽しめて、富士山麓の美味しい湧き水が飲める……そんな贅沢まで味わえるのに、地元の人たちにはそれが当たり前だからか、その豊かさをまったく感じていなかったんです。その後も都留市で5軒オープンして、実際ゲストがたくさん泊まりに来るようになると地元の人たちもビックリしながら、喜んでくれています。人気ラーメン店の近くにはラーメン店が立ち並び、いつしかラーメン街道となるように、僕が都留市で民泊という一つの商圏を作り上げたように、今ではゲストもどんどん増えて、周りにも宿が増え、地域の活性化にも繋がっています。一つの宿、一人の民泊ホストだけでは大きな変化は起こせなくても、宿が増えて町や地域ぐるみで盛り上がっていく、そんな可能性を都留市で体験できました。これからも地方の空き物件を再生させて、新しい土地をどんどん好きになって、田舎民泊の楽しさを盛り上げていきたいと思っています」
僕が内見のときに必ずチェックするのは、「空間」です。たとえば天井が高いとか吹き抜けになっているとか、リビングダイニングの広さや窓の大きさ、景色や見晴らしの良さなど、空間に身を置いてみて居心地いいかどうか、が何よりの決め手。どんなに古くて見た目が悪くても、いくら見捨てられたような物件でも、空間や間取りが良ければ、あとはリフォームでいくらでも素敵な宿に変身できますから。また、田舎で人気民泊を立ち上げるなら、大人数で泊まれる一棟貸しタイプがオススメです。ホテルや旅館は一部屋に最大4人までが一般的なので、差別化を考えても7人以上で泊まれる間取りや広いリビングダイニング、欲を言うと庭やBBQができる屋外スペースなどもあるとベター。田舎の場合は車で来るゲストが多いので、駅から遠くてもOKですが、観光地からは車で40分以内が狙い目です。
民泊は「立ち上げて終わり」「管理業務を丸投げ」といった姿勢では宿のクオリティが低くなってしまうので、やはり始めたからには日々改善を重ねていくことが大切だと思います。僕の場合、Airbnbのレビューをゲストのニーズ分析や改善に活かすように心がけていて、たとえば雨天にBBQができなかったという声があれば、屋根付きのBBQ場に作り替えたり。レビューからゲストのニーズや求めていることを汲み取って、それを反映して改善を重ねていくと、毎年売り上げが伸びていって人気の宿になるんです。そうして日々、よりよい宿にしていくアイデアや工夫を考え、反映させていく努力は大切だと思います。そのために、Airbnbのリスティングで人気の民泊をチェックして、できれば実際に泊まりに行って、ホストそれぞれのこだわりやコミュニケーション、対応の仕方などを感じ取りながら、自分の民泊に活かすのもいいと思います。
遠方に民泊を立ち上げるなら、最初は自宅から1~2時間で行けるエリアが理想ですね。僕も一軒目は自宅から1時間ちょっとの都留市で始めて順調に運営することができたので、遠隔でも成功する可能性はあると思います。その場合、やはり何かあったときには車で駆けつけられるほうが安心ですし、現地での管理を信頼できる人や業者に委託するとしても、定期的に見に行ける範囲内がいいと思います。
その土地に観光ニーズや宿泊ニーズがあるか、ある場合は観光地から車で40分以内かどうか、が見極めポイントです。周辺をリサーチして民泊はまだないにしても、もともとホテルや旅館、ペンションなどがあって宿泊ニーズがあるのなら、民泊を立ち上げるにはチャンスだと思います。そもそも不動産や空き家をお持ちなら初期投資もそれほど大きくはかからないので、「試しにやってみる」くらいの気持ちで民泊を立ち上げて、Airbnbのリスティングを作っておけば、きっと予約は入ってくると思いますよ!
物件自体はオシャレで素敵なのに予約が入らない宿も見かけますが、それはコンセプトが失敗だったり曖昧だったりするケース。人気が出るかどうかは、その宿でどんなゲストにどんな風に楽しんでもらいたいか、そのコンセプト決めが鍵だと思います。僕が部屋作りを考えるとき、まずはゲストが楽しんでいる場面をなるべく具体的に思い描くんです。「ここに薪ストーブを置いて、こっちにハンモックがあったら癒されそうだな。この眺めを堪能するにはここにソファを置いて、庭のこっちでBBQしたら盛り上がりそう」と、ゲストが楽しんでいるイメージを膨らませるんです。Airbnbのリスティングも、この宿でどんな体験ができるか、そのストーリーを写真や文章で伝え、さらには周りの観光地ガイド、BBQをするときの炭や食材を調達できるホームセンターやスーパーの紹介も添えています。お部屋作りの前に、まずはゲストがここで体験する「ストーリーを作る」ことが大切だと思いますね。
年々、夏の暑さが増しているので、避暑地エリアは人気が出ていくかもしれませんね。避暑地に限らず、田舎の民泊はまだまだ未発展なので、どこの地方も可能性は大きいと思います。そもそも田舎には空き家がたくさんあって、僕が何件も運営している山梨県は空き家の多さが全国1位。それは欠点とも思われますが、空き家が多い=物件が安いので、民泊ビジネスにとっては大きなチャンス! そうして使われていない空き家、わりと観光地にも近いのにあまり知られていない町って、全国にまだまだいっぱいあると思うんですよ。そういうところで民泊が盛んになれば、その地域や周辺の観光地も活性化して、日本全体の観光業も盛り上げていけるといいなと思います。
1996年に藤沢エフエム放送に入社しラジオ番組制作などを手がけ、フリーランスとなった後もFMや文化放送などで番組パーソナリティを務める。2004年までラジオDJとして活躍後、投資用不動産で27億円を売り上げるトップ営業マン、メガネメーカーの営業・取締役に転身。現在は本業の講師業の傍ら、株式会社Villa Repro代表、地方の民泊プロデューサーとして活躍。別荘民泊アカデミー主宰。著書に『ビジネスマンのためのスピーチ上手になれる本』(同文舘出版)、『相手のキャラを見きわめて15秒で伝える!』(ダイヤモンド社)など。
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