2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて 「イベント民泊」から広がるシェアリングエコノミーが、行政課題の解決につながる。

千葉市総合政策局 国家戦略特区担当局長
稲生勝義さん

2019年10月23日掲載

「イベント民泊」とは、宿泊施設の不足が見込まれる年数回程度のイベント時に、開催地の自治体の要請等により住民が自宅を宿泊施設として提供すること。旅館業法上の「旅館業」に該当しないものとして取り扱われ、今までにも阿波踊りで知られる徳島県徳島市などの自治体が実施している。

千葉県千葉市は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を睨み、9月のレッドブル・エアレース、東京ゲームショウでイベント民泊の実施を決定。2019年5月からAirbnbとも連携しながら、官民で着々とノウハウを蓄えている。今回、千葉市総合政策局 国家戦略特区担当局長・稲生勝義さんにその背景を伺った。

2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の競技会場である国際的な大規模展示場、幕張メッセを擁する千葉県千葉市。イベント民泊事業をスタートしたのは、イベント時に外国人観光客を含む多くの人が訪れることで起こりうる、宿泊施設の不足や多様化する宿泊需要を見越してのことだという。

「オリンピック・パラリンピックはもちろんですが、千葉市では他にも国際的なイベントが行われることが多く、多様な観光需要への対応と、その際の市民によるおもてなしの一つとしてイベント民泊事業が効果的だと考えました。まずは2019年の『レッドブル・エアレース』、『東京ゲームショウ』などでホームシェアリングのノウハウやホストの実践機会を積み上げ、2020年での円滑な実施を目指しています。千葉市は東京都心や成田空港へのアクセスも良く、特区民泊(国家戦略特区)をすでに導入しています。宿泊者が増えることにより、観光や食事など市内消費の増加や、市内開催イベントとの相乗効果も期待できます」(稲生さん・以下「」内同)

しかし、ホームシェアリング経験のない市民たちがホストになることは、ハードルが高いように感じられる。そこで千葉市は事業をスムーズに進めるため、Airbnbと、人材派遣や育成を行う企業・パソナとの協業体制という形をとることにした。

「Airbnbはホスト希望者の集客サポートや情報発信の強化を、パソナはホスト育成・運営支援を担ってくださっています。私たち千葉市は事業の主体者として、イベント民泊の拡大に向けた取り組みや催しを実施しています。Airbnbもパソナも、徳島市の阿波踊りにおけるイベント民泊の実績があり、知見が豊富。三者が協力し、ホスト希望者に説明会や研修会などを繰り返し実施し、ホストの発掘と育成を進めています。説明会ではホスト経験者が登壇し、宿泊料金の設定方法や、ゲストの客層、トラブル対処方法、外国人への対応などについて、具体的なアドバイスをしてくださいました。ホスト側にもさまざまな不安があると思いますが、細かいフォローができている手ごたえがあります」

ホスト向け説明会の様子。

Airbnbがホームシェアリングの世界的なプラットフォームであることにも大きな利点を感じているという。その知名度の高さと規模の大きさが、ホストやゲストの安心感につながるからだ。

「ホストの方々が最も苦慮されていたのは、どのようにゲストを集めるのかという点でした。世界中の人が見ているプラットフォームであるAirbnbに掲載することで、集客力は格段にアップします。さらに、ホストのモチベーション向上、中でもAirbnbに親しみのある若年層の事業参画促進にもつながりました。また、Airbnbのネームバリューにより、千葉市のプレゼンスも強化されたと感じています」

2019年度上期のイベント民泊でホストになったのは、20代~80代まで幅広い年齢層の13名。実際に事業を始めてから、市民のモチベーションの高さに気づかされたという。

「ホストを募集してわかったことは、実はホームシェアリングをやってみたい人は多数いるということです。しかし、さまざまなリスクを想定して踏み出せない人が多い。そんな人たちの背中をAirbnbが押してくれると感じました。集客に対する不安のほか、Airbnbのサービス利用に際して、PCやタブレットの操作方法に不安を抱える方も多数いらっしゃいました。この点もAirbnbやパソナがサポートしてくださり、ホスト間でも知識を共有できたことも大きかったです」

「今回ホストの方々が応募してくださったモチベーションは、大きく分けると3種類ありました。まずは、ホームステイの経験がある方。ご自身が海外でゲストになった経験から、ホストとして受け入ることによって一種の恩返しをしたいという気持ちや、受け入れの経験があり、次回は自らマッチングをしたいという思いがあるようでした。次に、海外旅行や国際交流への興味を深めており、その体験を自宅でしてみたいと考えている方。最後に、2020年にご自身ならではの“おもてなし”を考えている方。その他、将来的なホームシェアリングに向け試験的に経験を積みたい、子供が独立した後に空いたお部屋を有効に活用したいという意見もありました。市民の皆様に、これまでとはちがった異文化体験、国際交流の機会を提供できたことも、イベント民泊の利点だと感じています」

また、このホームシェアリング事業は、今後永続的に広げていきたい「シェアリングエコノミー」をスタートする1つのきっかけになったという。

「この事業は、オリンピック・パラリンピック開催期間に留まらない、持続的発展を目指しています。そして、ホームシェアリングをきっかけにシェアリングエコノミーが活発になることで、将来的に千葉市民の“共助”が高まることが期待できます。たとえば、2020年にご活躍いただいたホストの方々によるホストコミュニティを設立し、スキルやリソースをシェアし、里山・農業体験、史跡や飲食店のガイドなどのサービスにつなげていく。さらには託児や交通分野などでも、時間、人、モノ、空間がシェアされるようになる……。それらが活発になれば、地域全体の活性化が図れると考えています」

ホームシェアリングからシェアリングエコノミーが拡大し、市民の輪・おもてなしの輪がさらに広がる。それがやがて、待機児童、介護、交通、空き家対策、雇用促進など、行政課題の解決にもつながるはずだ。