宿泊先を提供するのと同時に、
その安全も提供する。

宅都ホールディングス
代表取締役社長 太田卓利さん

2018年12月26日掲載

不動産管理と不動産仲介、不動産開発、さらには入居者のライフサポートを行いながら、近年、建物の有効活用の提案として宿泊施設への転化、ホームシェアリングを推し進めるようになった宅都ホールディングス。先日、Airbnbとの提携を発表した同社のこれからの取り組みについて、代表取締役社長の太田卓利さんに話を聞いた。

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いち早く準備を進めていた、
宅都のホームシェアリング事業。

はじめに、宅都さんの事業についてお教え願えますでしょうか。

弊社は2018年で20年目を迎えました。元々は関西と関東に店舗を展開する、不動産の賃貸仲介からスタートしましたが、現在は、不動産仲介だけでなく、不動産管理、不動産開発・ソリューション、そしてライフサポートという4つの事業を中心に、住まいと暮らしの住総合コンサルティング企業として、日々お客様のニーズに応えております。

転機となったのは、2010年前後に起こったリーマンショックと東日本大震災。経済や環境に大きな影響を与える出来事を経て、賃貸仲介というフロービジネス型から、より安定的に収益が望めるストックビジネス型の不動産管理へ軸足を移すことにしました。結果、当初7,000戸ほどだった管理物件が、来期2019年には約3万2,000戸まで増える見込みです。

そんな折に、2020年に東京オリンピックの開催が決定。宿泊先が従来の宿だけではなく、住宅へと段々とシフトしていくような気運を感じていました。それと共に、やがて鍵の受け渡しや近隣とのコミュニケーションなどを請け負うことができる、我々のような不動産管理会社が求められるようになるのでは、とも考えていました。2014年から積極的に外国人採用を進め、現在では30名近い外国人スタッフが働いてくれています。

2018年6月15日、住宅宿泊事業法が施行されたのを機に、本格的に事業として参入されましたね。

そうです。住宅を宿泊施設に変え、整備をしていくためには、不動産管理会社が役に立つと考えています。企業単位で、しっかりと見ることができるわけですから。その第一歩に立ったのが、まさに今だと考えています。

ホテルではなく、住宅に戻せる宿泊施設をつくる。

では次に、Airbnbとの提携に至った経緯についてご説明下さい。

弊社はホールディングス化をしていて、グループ会社が3つ存在しています。その中のひとつ、不動産管理と不動産開発を行っている会社が中心となり、大手ディベロッパーに対して住宅宿泊施設の活用提案を行いました。少子高齢化が進み空き部屋が増えていく可能性が高いこれから、ディベロッパーが事業を継続的に行っていく術として、住宅を宿泊施設に変えるという取り組みを提案したのです。

そこで宅都さんがコンサルティングをし、運営管理としても参画する、と。

考えなくていけないのは、ホテルやホームシェアリング物件など宿泊施設が増えていった時の需要と供給のバランスですね。せっかく住環境を活用するのに、ホテルに対抗してシングルやツインの部屋を並べた、従来型の日本人がつくる日本人のためのただ泊まるだけのビジネスホテルをつくってもしょうがない。

例えば、数人が泊まれる30平米くらいの広さを確保し、メインターゲットをインバウンド向け家族用に設定しながらも、通常の住環境と同じように洗濯機やキッチン等の設備を用意することで、必要に応じて住宅に戻せるような柔軟性も考えています。不動産管理事業を行ってきたからこそできる活用提案のうちのひとつです。

宅都ホールディングスの事業方針を表した図。不動産仲介からスタートし、段々と管理も請け負うようになった後、自ら不動産の開発を行いはじめた。その三本柱に加え、近年ではIoTを導入し、よりスマートな管理を推し進めるなど、20年の間で起こった時代の移り変わりと対応するように、柔軟に変化をしている。

では、その具体的な事例についてお教え下さい。

大阪の四天王寺近くに建築予定だったマンションを転用し宿泊施設としてスタートしたのが1棟目で、現在では簡易宿所とゲストハウスも含めて3棟100室以上を運営しています。部屋にベッドや家具を置き、自転車置き場を朝食会場に変え、エントランスがとても広かったのでチェックイン/アウト用のカウンターを設けました。泊まる人の主は想定通りの3、4人くらいの家族で、平均宿泊日数が3.9日くらい。なかには1ヵ月くらい宿泊される方もいて、そこをハブにして、奈良や京都に赴いているようですね。しかし、ただ建てるだけでは供給力はすぐには上がりませんから、Airbnbというプラットフォームの力を借りる必要があり、この度の提携に至りました。

<物件キャプション>
2017年3月にグランドオープンしたコンドミニアム(分譲マンション)型ホテル。なんばや通天閣、大阪城、奈良、京都といった観光地にもアクセスしやすい四天王寺に位置している。34平米ある広々とした客室にはリビングソファ、大型テレビが用意され、キッチン、水回りの設備が整い、さらには衣類乾燥機能つきのお風呂もあるため、自宅のように使うことができる。長期滞在も可能だ。

民泊新法が施行されたことで、相当数のリスティングがなくなったとうかがっていました。規模が縮小すれば、社会に役割を訴え辛くなっていきます。我々は大阪だけでも約30万室の賃貸物件情報をストックし、豊富な情報のデータベースをもっていますから、Airbnbの規模感を保ち、より促進していくために、宿泊施設に転用が可能かどうか精査し、且つ宿泊者のニーズにマッチするかどうか検討した上で、該当する物件をAirbnbと連携しホストに提供していきます。ただ、提供したら終わりというわけではなく、先ほどの繰り返しですが、運営管理のサービスも同時に提供していく予定です。

大阪は訪日外国人が増えてきている都市のひとつですが、行政の方に話を聞いたところ、彼らの平均宿泊日数が3~4日で、その間、飲食代として使っているのが1万4,000円くらいと非常に安いんです。お好み焼きやたこ焼きといった単価が低いものが多いからかもしれませんが(笑)。

もちろん、お好み焼きやたこ焼きを食べることも大阪ならではの文化に触れていることにはなるんでしょうけど、もう少し可能性を広げたいですよね。

そうなんですよ。せっかくのチャンスが到来しているにも関わらず、経済効果が薄いというのが実情なのです。そこで、地域の食やイベント、体験などを組み合わせた、もう少し深い文化体験にも繋がる取り組みを始める話をしています。賃貸住宅だけをやっているのでは、なかなか地域に貢献ができませんから、そういった新しいことをAirbnbと共にやれたらと考えています。

そういった派生した事業を進めていくためにも、宿泊施設がもっと必要である、と。

そうですね。

世界中の人が日本に来て、使いやすい部屋を用意したい。

ただ、空いているマンションをリノベーションし、宿泊施設にするのは家主の方にとっては相当の負担になりますよね。ある種、賭けにも近いというか。それでもやりたいという方が多いのでしょうか。

すでにある物件を宿泊施設として使いたいとおっしゃる方よりも、ホームシェアリングをやりたいです、物件が欲しいです、という需要の方があって、多くの問い合わせを頂いています。コンサルティングの依頼が来ると、必ず賃貸住宅の場合とホテルにした場合の収益を計算して出すようにしていて、仮にホテルの方が高収益になったとしても、先ほど申し上げた通り、とにかく後々で戻せる状態にしておいた方が良いと伝えています。

そういったアドバイスや管理などのサポートを宅都さんにして頂けるというのは、家主さんにとって、かなりの安心材料になりますよね。

今までは個人の方がご自分で施設を運営するというケースが多く、問題も起きていたと思うんです。我々が間に入ることによって、遵守しなければならない法律を家主本人はあまり気にせずとも、安心して堂々とやれるようになるはずです。

では、最後に今後の展望をお聞かせ下さい。

特区民泊は別として、やはり180日規制(民泊新法の施行により、ホストとして届け出をすると、最大で180日間しか営業することができなくなった)が気になっていて、個人だったらかなりハードルが高いと思います、私たちとしてはホストとゲスト双方にとって有益なのであれば365日、すべて稼働させたいという気持ちがあります。そのためにはまず、トラブルが起きないということを証明しなければなりません。それが変わっていくと、マーケットとしてしっかり確立していく。そして最終的には賃貸して部屋を借りるというのと宿泊するという行為の垣根が徐々になくなっていく気がしているんです。例えば1ヵ月間というのが宿泊なのか、借りるということなのか、定義すら曖昧になっていくのではないか、と。

なるほど。一棟のマンションのなかでしばらくの間、滞在している人とショートステイする人が混在する、不思議な状況になりそうです。

一泊1万円のホテルや民泊に30日間泊まったら30万円。賃貸住宅を借りようと思ったら、このあたりだったら6、7万円。でも、後者は家具家電がついていないし、結果的にはホテルよりも高くついてしまう。その狭間がないんですよね。日本の場合、ホームステイもゲストハウスもそんなに簡単には見つけられないですから、例えば1年間限定で留学しに来たとしても、大抵は部屋を借りなければならない。となると、家賃に加えて、敷金も礼金も支払って、必要な物を買う必要が出てくる。それって本当に要るの?って思うんですよ。私は世界中の人が日本に来て、使いやすい部屋を用意したい。入居者を第一に考えることこそ、宅都が今、最も大切にしていることなんです。