外国人旅行客に、素顔の日本の魅力を伝えたい……東京都交通局はAirbnbとコラボレーションし、東京さくらトラム(都電荒川線)の沿線の魅力を発信する「TODEN LIFE TOURISM(都電ライフツーリズム)」プロジェクトを2019年1月17日にスタートした。
都営交通とAirbnbがコラボ
外国人観光客へ“東京さくらトラム(都電荒川線)”エリアの知られざる魅力を発信
沿線の暮らしを体験する観光プログラム「TODEN LIFE TOURISM」開始!
今回はコラボレーションの背景と、Airbnbを通じ提供される体験プログラムの内容を紹介。まずは、プロジェクトを担当した、東京都交通局 総務部 吉岡俊二さんに話を伺った。
「東京都心に残る路面電車の東京さくらトラム(都電荒川線)沿線には、三味線、染織、人形、革製品など多くの職人さんが工房を構えています。彼らの真摯な姿勢や、その技には、日本文化のエッセンスが凝縮されているのです。ここ数年、工房に直接、外国人旅行客が来ることも増えており、この沿線の魅力を含め、世界的な宿泊・体験のプラットフォームであるAirbnbとコラボレーションして、世界に発信したいと考えました。強い情報発信力に加え、魅力的なwebサイトや、体験プログラムの登録しやすさも決め手となりました」
2011年の訪日外国人数は約600万人だったが、2018年は3000万人を突破。たった7年間で5倍に増加している。2020年の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会までに増え続けると予想されている。
「何度も日本に来てくださる外国人も増えています。沿線には、昔ながらの日本の暮らしや文化が息づいており、有名観光地とは異なる“素顔”の日本の魅力があります。私達が発信するプログラムを通じ、日本文化や日本人を知っていただけると確信しています」
初回で登場するのは、ミニチュア、三味線、ひな人形、バッグ、手描き友禅などの工房の体験プログラム。中には、荒川区登録無形文化財保持者の方も多い。
「プログラムは今後も増やしていく予定です。どうぞご期待ください」
ドールハウスに使うミニチュアを制作、販売しているミニ厨房庵。その精緻な職人技に魅かれ、多くの外国人観光客が訪れている。ここで体験できるのは日本人の国民食ともいえるラーメンなどのミニチュアフード。まずは親子3人で運営する、工房に伺った。
ミニ厨房庵は、金属部品工場が前身だという。
「今でも部品の製造は行っています。約40年前に、機械の金属部品工場として創業しました。15年ほど前から妻が好きなドールハウスの部品を作る事業をスタート。私達のポリシーは、『実際の道具と同じ素材で作ること』です。銅、鉄、ステンレス……実際の生活で使うものと同じ素材で、キッチン用品やガーデンニング用品なども製作・販売しています。ここ10年は海外の展示会にも出店し、好評をいただいています」(河合行雄さん)
ミニ厨房庵には、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカなど、多くの国からドールハウスの注文が殺到。大きなものは数年待ちに……その人気のほどが伺える。
「細かさ、丁寧さは日本人だからかもしれません。この体験プログラムを通じ、ドールハウスに親しみがない方も、ミニチュアの豊かな世界を体験していただきたいと考えました。私達の体験内容は、陶器の小さな丼に、樹脂粘土でラーメンを作るというもの。この本物そっくりの素材感に多くの人が感動していただいています。ちょっとしたバランスで作品の印象が変わり、作った方の性格が出ます。特にグループで来た外国人旅行客の皆さんは、盛り上がっています」(ASAMIさん)
「実際にあるものを、同じ素材で作り、鍋の取手の角度や家電のスイッチの位置まで忠実に作り込むのは、おそらく私達だけの技術でしょう。Airbnbの体験プログラムに掲載されることにより、さらに広く海外からお客様がいらっしゃると思います。体験を楽しみながら、工房内に展示している、多くの作品を見ていただき、その魅力を広く伝えていただければと考えています」(河合朝子さん・左)
400年以上の歴史を持つ日本の伝統的楽器・三味線。荒川区登録無形文化財保持者の加藤金治さんの工房「三味線かとう」での体験プログラム内容を紹介する。
都電荒川線を望む工房で、三味線の魅力や歴史について伺った。
「絹の弦を撥(バチ)ではじいて、皮を叩く三味線は日本独自の楽器です。その独自性は世界に類を見ません。今は、津軽三味線が知られていますが、長唄、小唄、端唄、常磐津、民謡など多くの日本音楽で使われています。最近は、多くの外国人音楽家が作品に取り入れています」
工房を訪ねる外国人旅行客も年々増えているという。
「いらっしゃった方には、地図帳をお見せしどこからお見えになったか教えていただいているのですが、欧米はもとより、バルト三国、ニューギニアなど多くの国と地域からいらっしゃっています。マイ三味線を持ち張替えにいらっしゃる方も増えています。世界中に三味線の魅力が広がっていることを感じています」
加藤さんは15歳の頃から三味線の制作に携わっており、この道一筋の職人だ。
「三味線の音を決めるのは、皮を張ること。私達は演奏する人の特徴に合わせて、皮を見極めてもち米で作った糊で張っていきます。体験プログラムでお越しいただいた方には、この作業を見ていただき、三味線の奥深さを伝えていきたいと考えています」
体験プログラムはこの職人技を見学するだけでなく、三味線の演奏体験や、音楽鑑賞も含まれている。三味線かとうの2階はライブハウスになっており、畳の座敷で演奏家によるライブも楽しめる。体験で演奏体験をする曲は『さくら』。都電荒川線沿線は、王子や荒川土手など桜の名所が多い。
「音楽は、言葉を介さずコミュニケーションができます。今後も三味線を通じて、その魅力を広げていきたいと考えています。Airbnbの体験プログラムで、多くの人に日本の音楽のよさが伝わっていくでしょう」