マイホーム

「イベントホームステイ」で見つけた、
親子の深いつながりとシニア世代の新たな生きがい。

千葉県 Kimikoさん、Kenjiさん、Takashiさん

2020年3月10日掲載

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会をはじめとする大型イベントの開催を機に、Airbnb(エアビーアンドビー)と連携しながら「イベントホームステイ」という仕組みを推進している千葉市。「イベントホームステイ」とは、開催地の自治体の要請により一般家庭が空き部屋などを宿泊場所として提供するプロジェクトだ。今回は、そのホストを経験した千葉市在住の一家に話を伺った。

陸上競技場や博物館や文化ホールといった、多くの人が集まるスポーツ施設や文化施設が充実している千葉市の青葉の森公園。そのほど近くに位置する一軒家にひとりで暮らしているKenjiさんに「「イベントホームステイ」のホストをしてみないか?」と提案したのは、同じ千葉市内に住む息子のTakashiさんだった。

「父は今年で83歳になるのですが、60歳で定年を迎えた頃はよく海外旅行に出かけていました。でも70歳を超えたあたりからあまり行かなくなって。最近は、どうにも寂しいらしく、『今度はいつ、孫を連れて遊びにくるんだ?』とよく電話がかかってくるんですよ(笑)。そんなとき、この「イベントホームステイ」のことを知って、海外へ行かなくても海外から人が来てくれるなら、父の新たな楽しみになるかなと思ったんです。それに実家には、誰も使わなくなってしまった部屋もいくつかありますし」(Takashiさん)

もともと人と交流するのが好きだというKenjiさん。「自宅の一室に旅行者が泊まりに来る」「もしかしたら外国人が来るかもしれない」。そう聞いて、「あ、それいいなぁ」とすぐに乗り気になった。

掛け軸が飾られた床の間のある和室は、外国人旅行者に人気とのこと。
普段からKenjiさんは、誰でもウェルカムな休憩所としてリビングを解放している。

「イベントホームステイ」始めるにあたって、KenjiさんとTakashiさんが最初に行ったのは、家の掃除だった。家族の歴史が積み重なっていくにつれ、家の中にはモノが増えていく。特に、子どもに関する思い出の品はなかなか捨てられないものだ。

「あれ捨てろ、これ整理しろ、ってTakashi監督がうるさくてね」と笑うKenjiさんに対し、「そうやって親子で一緒に家を片付けるのもいいもんだと思いました。過去の思い出よりも、新しい思い出をつくっていこうという気持ちもありましたしね」と話すTakashiさん。前向きなTakashiさんに引っ張ってもらいながら、着々と準備を進めていったという。

ホスト業務は親子で役割分担をすることにした。ゲストが快適に宿泊できるように枕カバーやシーツなど必要なものを用意したり、予約から宿泊までゲストと直接やり取りしたり……そんな宿泊前の準備を仕事仲間のKimikoさんにサポートしてもらいながら担当したのがTakashiさん。宿泊当日のおもてなし役がKenjiさんだ。

Kenjiさんが着ている真っ赤なウェアは、ウクライナ人ゲストからのプレゼント。
初めてのホスト体験を楽しげに語るTakashiさんとKimikoさん。

準備を進めながらも本当に人が来てくれるのか半信半疑だったある日、初めてのゲストから予約が入った。千葉市内にあるスポーツ施設で開催されるテコンドーの世界大会に出場するため、ウクライナから来日する女性選手と、そのコーチである父親だ。

「私自身お酒が好きなので、飲める人が来てくれないかなぁって思っていたんです。そうしたら、お父さんがウクライナからウォッカを持って来てくれててね。夜、一緒に飲んだんですよ。言葉は通じないから、ジェスチャーで会話してたんだけど、飲んでる途中で缶ビールを勧めたら、部屋に置いてあった一升瓶を指差して『サケ、サケ』って言うんですよ(笑)。結局、夜中の12時頃まで飲んだかなぁ。あれは楽しかったね」(Kenjiさん)

滞在日数は3泊4日。試合を終えた翌日のフリータイムには、ゲスト親子と一緒に買い物に出かけた。訪問初日に受け取ったウクライナ土産のお返しに、Kenjiさんはトレーニングウェアとワンピースをふたりにプレゼントしたのだそう。

「ふたりとはSNSでつながっているので、帰国したあとに娘さんがワンピースを着た写真をアップしてくれているのを見て、うれしかったですね。父はSNSをやっていないので、『Kenjiは元気?』とメッセージも届きます(笑)。あと、日本で災害があったら『大丈夫?』って心配してくれて、なんだかウクライナに親戚ができた感じです」(Takashiさん)

タペストリーや絵皿、キーホルダーなどのウクライナ土産のなかには、娘さん手づくりの人形も。

そんなウクライナ人ゲストとの交流をきっかけに、ホストをもっとやりたいという意欲が高まったというKenjiさん。千葉市が開催するおもてなし講座やツアーガイド講座に参加したり、最近では「発音が多少悪くても、単語を並べたら通じるから、英単語を覚えたい」と思っているそうだ。

「僕から父へ、頻繁に電話するようにもなりました。ゲストを迎える準備をしたか、とかいろいろ確認することがあって(笑)。親子のコミュニケーションは増えましたね。父のように生きがいを求めている親世代はたくさんいて、空いている部屋もいっぱいあるのに、ネットを使ってホームシェアリングを始めるのはシニアには難しい。だから、子ども世代がネットを担当して自然に一緒に取り組めば親子関係の見直しにもなると思うんです」(Takashiさん)

「やってみる前は、外国からこの千葉の一軒家に人が来るのかなと不安でしたが、本当に来てくれたので感激しました。日本の旅行サイトでは、こんな風にはいかなかったんじゃないかな。世界中に利用者がいるAirbnbに掲載したからこそ、ウクライナという今まであまり知らなかった国の人ともつながることができたんだと思います」(Kimikoさん)

「趣味といえば、庭いじりくらいかな」と言うKenjiさんご自慢の庭。

その後、「イベントホームステイ」でもう1組のゲストを迎え、ホストの楽しさを知ったKenjiさんとTakashiさん親子は、2020年1月に住宅宿泊事業者として登録。今後さらにホームシェアリングに力を入れていきたいと話す。

「外国人旅行者が泊まりに来てくれたら、このローカルなエリア内で、例えば書道教室とか空手教室とか、日本ならではの体験ができる場所と宿泊をつなげて、ツーリズムをつくっていきたいと思っています。千葉市は、行政がホームシェアリングをバックアップしているので、一般の人が参加しやすくコミュニティも広がりやすいんです。来春は、青葉の森公園の桜を見るツアーも企画したいですね。父も花見でゲストとお酒を飲むのを楽しみにしていると思いますし(笑)。その様子を世界に発信すれば、来たいと言ってくれる人がさらに増えていくだろうし、この地域はもっと面白くなっていくと思います」(Takashiさん)

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