芸術大学とともに取り組むシェアリングエコノミー

京都造形芸術大学
社会実装・事業戦略部門
事務局長 吉田大作さん

2019年4月22日掲載

18歳から95歳まで国内外から学生が集まる日本最大規模の芸術大学、京都造形芸術大学。「社会と芸術」の関わりを重視した教育を推進している同校が、先日、Airbnbとの包括的提携の締結を発表した。その目的や取り組み、今後の展望などについて、社会実装・事業戦略部門 事務局長の吉田大作さんに聞いた。

社会に対し、大学としてできることは何なのか。

はじめに、御校について教えていただけますでしょうか。

いわゆる美術工芸領域のファインアート分野だけではなく、プロダクトや情報デザイン、空間デザインや建築というデザイン分野や、さらに映画や舞台、歴史遺産やアートプロデュースなど、13学科23コースからなる総合芸術大学です。それだけ多様な専門的人材が学内に集まっているのはひとつの強みかと思います。

大学全体の特徴というと社会状況を見て、次々と新しい一手を打っているという強みがあると思っています。私の所属する社会実装・事業戦略部門では、大学の周辺環境を分析して、社会の未来を想像しながら、今、何ができるのかということを考え、さまざまな企業や自治体とネットワークやアライアンスを組んだりして、大学の役割である教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。

Airbnbとの包括的提携もその一環ということですね。どのような経緯で今回の提携に至ったのでしょうか。

2016年に社会連携を加速していこうと、副学長の小山薫堂が代表を務める株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ、本学の教員でもある小笠原治の株式会社ABBALabと学校法人瓜生山学園の3社で株式会社クロステック・マネジメントを設立しました。同じタイミングで、次期大学の構想として「芸術教育の社会実装」を掲げました。これは、芸術を自己表現に留めるのではなく、自分の好きなことが社会とどう繋がり、誰を幸せにしていくのかを考えて、社会に具体的な形として提案できる教育をしようというものです。

Airbnb Japan執行役員の長田英知さんが本学にいらした際に、我々の考えをお伝えしたところ、課題意識などで共感する点があり、何か一緒にできたらとお話したのがスタートです。

Airbnbに注目された点、包括的提携の目的について、詳しくお聞かせください。

これからの世の中はシェアリングエコノミーが拡大すると言われています。大量に生産して大量に廃棄していくというモデルはサステイナブルな仕組みではないんです。今あるものをみんなでシェアし、循環させていくことで、環境にも地域経済にも永続的な仕組みを作れるシェアリングエコノミーは、大学としても取り組むべきだと考えていました。

Airbnbは正にその新しいモデルを作っているので注目していました。Airbnbはアメリカの芸術大学出身のおふたりとエンジニアの方が創業したという成り立ちも親和性が高く、株式会社クロステック・マネジメントもそのようなサービスや製品を生み出すことも目指して作りました。今まで芸術大学にはエンジニアリングという要素はなかったのですが、企画やコミュニケーションに加えて、エンジニアリングを学べるクロステックデザインコースも同時に立ち上げました。

提携にはどのようなメリットがあるとお考えでしょうか。

Airbnbが作っている仕組みは、日本国内の課題解決はもちろんのこと、海外も含めて可能性が詰まったモデルだと思っています。そこに本学がもっている資源やアイデアを掛け算することができたら、社会課題の新しい解決に繋がるのではないかと思うことが多いんです。

例えば、今、映画学科の取り組みとして熊本県天草で映画を撮っているのですが、大学で映画を作るというと卒業時に自主制作映画として発表して終わりがちです。本学では商業映画として劇場で放映するところまで作り上げていく。学生たちが映画産業の中でやっていくにはいくらのお金がかかり、いくら回収しないと映画を作り続けられないということを学生自身が理解することが必要です。

また、映画を撮ると地元の方は映画での地域おこしを期待されるのですが、その盛り上がりは一瞬でまったくサステイナブルなものではないんです。映画を作るだけではなく、その街の体験的価値や文化的価値に光を当てたい。国内外から人に来てもらい、その価値を提供するにはどうすればいいのかと考えるのですが、それはAirbnbの仕組みに触発されているところがあります。先日、伺った天草酒造さんは、こだわりを持って焼酎づくりをされていて、焼酎をブームとして消費させるのではなく、自分たちがやろうとしていることを丁寧に伝えたいとおっしゃっていて、そういうときにAirbnbと組んだら何ができるかと考えるようになりました。大学だけでもアイデアを出したり企画を考えるところまではできますが、今まで宿泊も含めた総合的なサービスとして展開させようということは考えませんでしたから。

お茶室文化に繋がるアートでのおもてなし。

次に、具体的な連携内容についてお聞かせください。まず、学生さんや卒業生の方のアート作品をAirbnbのリスティングに飾り、ゲストが観賞できるという取り組みはいつ頃開始するご予定ですか?

もう少し意味付けをしないと広く展開していかないだろうと話をしていて、今は最終調整をしていている段階です。単にこのリスティングに作品がありますよ、と紹介するのではなく、Airbnbと本学がリスティングをギャラリーのように認定できるとしたら、その場所は付加価値が上がりますよね。

アーティストとリスティングとのマッチングはどのようにするご予定ですか?

登録した作品からホストの方に選んでいただきたいです。我々のコンセプトは「お茶室の文化」。お茶室ではホストがゲストをもてなすときに、どんな掛け軸を飾り、花を生ければ一期一会の座を作ることができるかと、相手のことを考えて準備します。リスティングでもそうあってほしいという願いがあって、ゲストに合わせた作品でもてなすことができたら、すごく贅沢な時間になると思うんです。作品の背景にあるアーティストひとりひとりの物語をホストの方に理解していただいて、マッチングができたらいいなと思っています。

学生さんや卒業生の方からの反応はありましたか?

卒業生の反応がすごく大きいですね。芸術大学を卒業しても作品がそう簡単には売れないため、アーティストを目指してもその生活が長く続けられずに断念せざるを得ないという現実があります。大事なのは、ある一定の期間作品を作り続けられる環境を作ることで、アーティストの裾野が広がり、作品のクオリティが上がっていくこと。そういう場を作りたいという大学側の思いがあったので、卒業生や学生たちには期待をもって受け入れられていますね。

日本では、作品を買いたいと思ったら、アートフェアかギャラリーか百貨店で買うしかないんですね。でも、ギャラリーは所属アーティストが限られている。その作品を買うにも、パッと行って気軽に買える状況でもありません。既存の仕組みにあまり手を入れないほうがいいと思っているので、今回の取り組みはこれまでにない仕組みを作りたいと考えています。リスティングという生活空間の中に展示するので環境的にもユニークだと思います。

染織テキスタイルコースの授業の様子。「染織のまち」京都の伝統を学ぶことができる。

寄附講座の開講についても発表されましたが、こちらはどのような内容でしょうか?

寄附講座はこの4月からクロステックデザインコースの実際の授業として取り組みます。大きくふたつの軸があって、ひとつはAirbnbからの寄附講座なので、これからの新しいホームシェアリングサービスについて考えようという点です。もうひとつは、このコースは企画やコミュニケーションとメカ、エレキも含めたエンジニアリングがセットされているので、例えば、Airbnbの仕組みの中で新しい製品やサービスを考えるとしたら、どのような製品だと既存の販売チャネルと異なる仕組みを作れるのかという提案などをできればと思っています。クロステック・マネジメントという会社があるので、ネットワークを繋げて実際に製品化できたらいいですね。

学生時代からビジネスの中で実践的に学んでいけるのですね。

はい、Airbnbと組むことで学生たちの価値観を壊せたらいいなと思ってます。日本では独立や起業はリスクの高いギャンブルみたいなものと思われがちです。そのため学生が求めるものは未だに安定なんです。しかし、今後急激に変化する世の中でそれが一番危険で、私は、3人で小さく始めたAirbnbのビジネスが国際的なものに成長したプロセスに大きな可能性を感じています。世界のスタートアップは20代で立ち上げていることが多いですし、18、19歳のときにそれまでに作られてきた固定概念が崩すことができれば……。人間の潜在意識を変えるには具体性が必要だと思うんです。

「Airbnb Day in Kyoto」に登場したキャラバンカーの前で。左から、オレンジ・アンド・パートナーズの代表取締役副社長、軽部政治さん、Airbnb Japan執行役員、長田英知、京都造形芸術大学、吉田大作さん。

昨年12月に京都の芸術と文化を祝うイベント「Airbnb Day in Kyoto」を開催されましたが、いかがでしたか?

副学長の小山薫堂が、京都の観光についてのパネルディスカッションで、訪日外国人観光客が増えているために新しいホテルがどんどんできているが、観光が消費されてしまったら二度と人は来なくなってしまうと言っていたんです。消費されないためにどのように一期一会の体験的価値を提供するかを真剣に考えなくてはいけないという提案はとてもよかったですね。

全体的にはもう少しチャレンジングなイベントにしてもよかったかなと思っています。せっかく大学業界の中でもあそこは何をやってくるかわからないと言われる本学とAirbnbで組んだので、誰も想像できないアイデアみたいなものが生まれそうな空気をもう少し出せたのではないか、と。ただ反響は大きくて問い合わせが多くあったんですよ。

今後も定期的に続けていくご予定なのでしょうか?

未定ですが開催できるといいですね。そのときは、寄附講座などで生まれたアイデアなどを発信するなどの仕組みが作れたらおもしろいと思います。

Airbnbの仕組みと掛け算しながら社会的な課題の解決を。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

クリエーションの潜在的可能性と毎年新たな人材が集まり続けるのは芸術大学ならではの強みです。さらに、大学の持つ社会性という点から大学がハブになり、そこに企業や自治体などが関わっているので、Airbnbの仕組みと掛け合わせて社会的な課題の解決や人が幸せになったり、みんなが笑っていられる社会を構築する具体的な事例を早く出したいという思いはあります。

先ほど、天草のお話をしましたが、私は一番の応援はそこに行くこと、実際にお金を出すだと思うんです。だから、天草で映画を撮っても、実際に人がそこに行かなければ変化は起きません。天草酒造さんのすぐ前の海ではあおさのりの養殖をしているので、あおさを採って焼酎と一緒に楽しむという体験、きれいな星空、コバルトブルーの海などの自然、こういうものをひとつひとつ丁寧に繋げられたらと思っています。ものづくりの背景にあるストーリーも含めてサービスとセットできれば、地方の産業の課題をもう少し解決できるのではないでしょうか。このようなことをAirbnbと実現できたらと思っています。

学校法人瓜生山学園 京都造形芸術大学 学校法人瓜生山学園 京都造形芸術大学

学校法人瓜生山学園 京都造形芸術大学
京都市左京区北白川瓜生山2-116

1977年に前身の京都芸術短期大学の開学から数えて42年を迎える総合芸術大学。1998年には、芸術系の4年制大学では初めての通信教育課程を開設。現在、18歳から95歳が学ぶ日本で最も学生数の多い総合芸術大学。開学の哲学として、「京都文藝復興~藝術を学ぶことを通じて、人間とは何か、社会とは何かを考える学生を輩出する」「藝術立国~藝術を学んだ学生たちの力で社会のより良い変革に寄与する」ことを掲げ、多地域・多世代に向けた芸術教育を推進している。「芸術教育の社会実装」を目指し、企業や自治体と連携した様々な課題解決プロジェクトを推進しており、文部科学省、経済産業省の各種事業にも採択されるなど、その活動に注目が集まっている。