旅館・ホテル

1日10組限定の旅館が、Airbnb導入後、
海外からの旅行客が急増し、平日も満室に

神奈川県 箱根久織亭
https://www.airbnb.jp/users/155971641/listings

2019年7月1日掲載

箱根湯本駅から車で30分の場所に佇む旅館『箱根久織亭』。宿泊は1日10組限定という小規模な旅館だ。かつては、平日の宿泊客が数名ということもあったが、2017年にAirbnbに掲載してからは、連日満室が続いている。海外からの旅行客が増え、彼らの口コミでゲストの裾野が一気に広がったことを実感しているという。日本旅館とAirbnbがタッグを組むことにより、どのような変化が起こったのか、お話を伺った。

箱根久織亭:
住所/神奈川県足柄下郡箱根町仙石原830-6
電話番号/0460-83-8542
公式サイト/https://www.hakonekuoritei.com
料金/1泊2食34,000円~、素泊17,000円~(2名1室)

Airbnbに掲載した旅館『箱根久織亭』は、2017年オープン。株式会社neri resortが運営する。居心地がいい旅館として、日本人はもとより、海外の旅行客から人気を集める。約1年半前にAirbnbへの掲載を開始し、世界中から予約が入るようになる。また、ソーシャルメディアへの投稿数も多く、評判が評判を呼び、Airbnbからの予約が倍数的に増えている。

左/株式会社neri resort代表取締役・高山博章さん。
10代からサービス業に従事し、ホテル、旅館などの運営を手掛けている。
右/サービス担当・月村真梨子さん。
大学卒業後、ホテル業界に入る。1年前から箱根久織亭の運営に携わり、サービスの最前線で働く。

旅館がAirbnbに掲載するという例が増えている。

「最初は手探り状態で始めました。掲載したのは、時代の流れを見ると必然でした。観光立国として、訪日外国人が増え、彼らに認知される必要がありました。そのために、最もスムーズなのは、Airbnbへの掲載と考えたのです。概要説明、予約、決済がワンストップで行われます」(高山さん)

「Airbnbには、レビュー機能があります。これは、ゲストとホストの両者が、それぞれ公開と非公開の2種類の形でメッセージを送ることができるものです。これは、“旅館とお客様”という立場を超え、一人の「個人」へ言葉をかけあえるツールだと感じています。お客様と旅館の双方を評価するだけでも画期的ですが、その先には私達から「あのあと、富士山は見えましたか?」「お部屋をきれいに使ってくれてありがとうございます!」という言葉をお伝えできたり、ゲストから「いい滞在だったよ!」「充電器を部屋に忘れたけれど、あれはもういらないや」などというお言葉を頂いたり、お互いチェックアウト後に伝えたかった些細な一言も届けあうことができます。
当館にお越しになるAirbnbのお客様はマナーが良く、お部屋や館内をきれいに丁寧に使ってくださることが多いです。それは、友達の家に泊まったら、その友人が嫌な思いで掃除をしないで済むようにある程度きれいにして帰るような感覚に似ています。何でも許される「お客様」ではなく、旅館のその向こうにいるスタッフのことを認識してくださっている、まるで知人同士の関係のように感じています」(月村さん)

ロビーのメインテーブルには、地元の和菓子店の落雁や、昔の製法で作られたラムネなど、日本を感じるウェルカムスイーツを用意。アイスキャンディやコーヒーも自由に楽しむことができる。
木々の音、鳥のさえずりが聞こえる静かな客室。畳の部屋に喜ぶゲストも多い。

海外からのお客様というと、言葉の問題が避けられないようにも感じる。

「満足に英語を話せるスタッフはいませんが、いくつかのフレーズと簡単な単語と観察力を使えば意思疎通はできます。身振り手振りで説明しながら、相手の言葉や表情から、何が伝わって何が伝わらなかったのかを確認し、相手が求めているものを探ります。それは一般的な接客では忘れがちな、コミュニケーションを取るうえで何よりも重要で根本的なことだと思います。最初は、互いに伝えたいことが伝わらない事によるフラストレーションを感じたこともありましたが、今は全くありません。海外旅行として日本の箱根の当館を選んでくださった、そんな特別なお客様に対して私達は何ができるか、それだけを考えています」(月村さん)

「Airbnbのお客様に、従業員を育ててもらったように感じています。国内の一般のお客様とは言語もニーズも違い、コミュニケーションは取りづらいはずです。そんなお客様に対して誠実に対応することを繰り返すことで、従業員の接客スキルはめざましい勢いで向上しています」(高山さん)

内風呂の様子。大浴場と内風呂を備えており、日本の入浴マナーに則って使うゲストがほとんどだという。

小規模な旅館ならではの、臨機応変なサービスが、海外からのお客様を魅了しているという。

「以前、交通事情で到着が深夜になってしまった、アメリカからいらした2人組の女性のお客様がいました。外は大雨で、ずぶ濡れで疲れ切った2人が再び暗闇の中へコンビニ弁当を買いに外出するのはあまりに可哀想でした。その時、料理長は2人に即席ディナーを振る舞いました。お客様は心から喜んでくださり、一年後にボーイフレンドとともに再び泊まりに来てくださったことがあります。他には、富士山のために日本へ来たお客様にドライブをご提案して、早朝に富士山が映える絶景スポットまでお連れしたことがあります。できることは限られていますが、そのなかでは最大限のおもてなしをしています。そして、それがお客様にとって本当に価値があったのかどうかは、Airbnbのレビューを見れば一目瞭然です。この機能は、私達のおもてなしが自己満足に終わっていないかを確認することができます。精一杯向き合ったお客様から、温かく感謝の込められたメッセージを受け取ることは、自分たちのサービスに対する自信と誇り、そしてやりがいに繋がっています。」(月村さん)

「Airbnbのプラットフォームでは、100%事前決済なので、到着前に予約決済などの事務作業を済ませられるので、目の前のお客様に割ける時間が増えることも大きな利点です。」(高山さん)

箱根久織亭の繊細な日本料理は、多くの海外からのお客様を魅了している。

「海外からいらっしゃる皆さんは、日本文化を学ぶことに熱心です。お食事は、地元の食を使ったり、日本ならではの調理法で作ったりと、ここでしか味わえない料理を提供しています。そのため、ただ料理を出すだけではなく「この季節しか取れない山菜です」、「この牛肉は箱根紋次郎という名前です」または「これは日本にしかない『生麩』というもので、グルテンでできています」など、眼の前にあるものの価値や工程を伝えるように、拙いながらもできる限りの英語で説明しています。食材一つ一つを英語に翻訳し丁寧に説明し、日本のお客様と同じだけの満足を味わっていただけるように工夫させています。」(高山さん)

食事がないプランのゲスト用に、ポットのみならず、電子レンジとトースターを客室に設置した。

Airbnbへの掲載から、一年半。今後、どのようにAirbnbを活用していくのだろうか。

「今、目の前にいるお客様の懐に飛び込んで、たくさんのお話を引き出し、お客様の目から見えるこの景色を丁寧に想像します。せっかくのご旅行が、お客様にとって忘れられない思い出になるために、出来ることはたくさんあります。素敵な体験ができれば、それは他の人へと語られ、世界中へと広がっていくでしょう。Airbnbはゲストとホストの間で親しいコミュニケーションがとれる、きめ細かなプラットフォームだと感じています。お客様の大切で特別な思い出の1ページを作るのに自分たちが携わっていると思うと、これ以上の幸せな仕事はないと思います。これからもAirbnbを通して、多くのお客様の思い出づくりに貢献していきたいです。」(月村さん)

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