Reborn-Art Festival × Tカード

関わっている人たちの想い

小林武史×森本千絵
〜石巻の子どもたちとアートを
つくろうプロジェクト〜

「石巻の子どもたちとアートをつくろうプロジェクト」が始まりました。これは、2011年より「子どもたちの笑顔と地域コミュニティ」をテーマとした東北応援プロジェクトを続けてきたTカード/Tポイントとの共同企画となります。
「地域に根差しながら将来にわたって地域活性化の源となるようなアート作品を石巻の子どもたちが主体となって創る」というこのプロジェクト、第一回目の活動として、6月24日~25日の2日間にわたり、石巻の子どもたち6名が参加するワークショップが行われました。
この企画にアートディレクターとして参加してくれる森本千絵さん(goen°)と小林武史のふたりが、このプロジェクトにかける想いや、ワークショップの感想を語り合いました。

子どもたちのセッションからアートが生まれる

小林 今回、Tカードさんからこのプロジェクトのお話を頂いたとき“子どもたちが主体になって進めるプロジェクト”だということがとてもいいなと思ったんです。僕らもReborn-Art Festivalをサスティナブルな活動にしていこうと思っているなかで、石巻の未来を担う子どもたちと一緒に何かできたらいいなと考えていたので、そこをいい形でつないで頂けたなと。そこで、具体的に詳しいプログラムの内容を聞いたんですが、すぐに「よし、千絵に協力してもらおう」って思ったんです。

森本 声をかけてもらってありがとうございます。

小林 今回はこのプロジェクトの第一回目のワークショップで、「なにを創るか」を決めることが目的だったんだよね。だからもっと企画会議のような、話し合いが中心になるのかと思っていたら、わりと身体を動かすプログラムが多かったでしょう? 普通に考えると、あんまり企画趣旨とは関係ないようなレクリエーションみたいなものとかやっていたみたいだけど。

森本 ワークショップにもいろいろとあって、お手本通りにみんなで同じものを作る手芸教室、みたいなものもありますよね。今回はそういうお稽古のようなものではなくて、子どもたちそれぞれの個性を引き出して、セッションできるようなものにしたかったんです。そのセッションによって「なにを創るか」という目的が自然と果たせるといいなと。

小林 でもたしかに、初対面の子どもたちがいきなり輪になって「さあ、どんなアート作品を創るか話し合いましょう」と言っても、いいセッションは生まれにくいということだよね。

森本 自分たちの身体を使って彫刻を創るとか、お題となる言葉を身体の表現だけで次の人に伝えていく伝言ゲームとか……。すごく無駄なことのようなんですけど、頭も身体も使ってそういうことをすると、どんどん感度があがっていくんですよ。とくに子どもはそういう能力が高くて、楽しくなってくるとどんどん進化して、すごい発想が出てきたりするんです。ただ、最初にその根っこの部分を引き出すのはなかなか難しいんですよね。初めはみんな恥ずかしがるし。だから今回は2日間、goen°所属で、ダンスカンパニー「コンドルズ」のダンサーでもあるオクダサトシさんと一緒にいろんなことをやりました。やっているうちにどんどんみんながほぐれていくのが分かるんですよ。

小林 なんか楽しそうだったよね。僕が2日目にワークショップの様子を見に行ったとき、みんなが自分の名前を身体で表現する自己紹介してくれたでしょう? あれはなんか、普通に名前を言われるのと違って、それぞれのキャラクターみたいなものまで伝わってきた。

森本 名前だけ言われても覚えられないけれど、ああいう風に“空気”で紹介してもらえると、「あ、こういう子なんだな」と分かりますよね。あれをやってもらうと、こういう子には具体的に相談した方がいいかなとか、丸投げして自由にやってもらった方がいいかなとか、そういうことまで分かるんです。

自然の素材をつかって、人が集まるような作品をつくりたい

小林 あの、貝でできた、船のような、海の生物のようなオブジェをみたときに、本当にびっくりした。もう、素直に「すごいな」と思いました。よく見ると、きれいな貝殻だけじゃなくて、ボロボロの紐とかジュースが入っていたプラスチックの入れ物とか、まあ要するに浜辺に捨てられているものだよね、そういうものも入っていて。でも、その素材一つひとつのテクスチャーの生かし方もすごかったしさ。

森本 あれは、前日にみんなで牡鹿半島の浜辺に行ったときに「心にぐっとくるものだけを拾って」と言って集めてもらったんです。40個くらい集めた子もいれば、厳選して5個だけ持ち帰る子もいて、本当にさまざまでした。あと、ああいうものって浜辺に落ちているときには気付きにくいけど、手にとってまじまじ眺めてみたり、真っ白な紙の上に一個一個置いてみたりすると、微妙に色や形や発しているものが違って見えてくるんですね。そういう普段気づかないことに気づくということも大事なんです。準備された素材で何かを創るのではなくて、自分で身体を動かして見つけたものを、どうやってつなげてどんなものを創るか、どんどん想像して、また新しいことを発見して、形にして、ということをやりたかったんです。

小林 それはReborn-Art Festivalで僕らが考えていることと共通するね。今回、牡鹿半島に作る「Reborn-Art DINING」という浜辺のレストラン、いわば「不便なレストラン」ともいえるものなんだけど。そこはバスを降りてからけっこう歩くことになるんです。自然のなかに入っていって階段なんかも登らなければならなくて、辿り着く頃には息が上がるような感じなんだけれど(笑)。でもそこにはすごい景色が広がっていて、気持ちのよい風が吹いて、磯の香りがして……。身体を使っていくからこそ、身体全体で感じ取られるような気持ちよさとか、そこで食べるものの美味しさとかをつよく感じられるような、そういう身体性みたいなものを大事にしたいと思っているんだよね。今日の、みんなが作ったあの拾った素材で作ったオブジェにも、なんかそういう身体性から生み出される勢いというか、気の流れみたいなものを感じた。

森本 あの作品は“回遊作戦”で作ったんですよ。そろそろほぐれたかな?というところで「じゃあ、みんなで一緒に作ろう」と言ったんだけど、やっぱり手がとまっちゃったんですね。だから、みんな一列に並んで順番に一個一個素材を置いていく作戦にしたんです。作品の周りをぐるぐる周りながら、順番がきたら積んである素材の中から一個だけとってぽんって置く。リズムが乱れないように、止まらないように、ぽん、ぽん、ぽんって。みんな魚が回遊しているみたいな動きをしながらあれを作ったんです。だから多分、立ち止まって考えながら並べるよりも、シュウッという流れみたいなものが作品にできているんじゃないかと。

小林 だからなんとなく流れを感じたのかもしれないね。今回はこの作品をベースにして「なにか」をつくることになるんだよね。

森本 はい。これを今後どうするか、どこに設置するのか、もっともっと大きなオブジェに生まれ変わらせるかなどを、Tカードさんと一緒にフィジビリティチェックをしていきます。あと、もう1点、アイデアが生まれたんですよ。みんなと話していたときに「家を作りたい」とか「公園を作りたい」とか「ステージを作りたい」とか、そういう声もあったんです。なんかもっと立体的で、そこに、人が集まってくるようなものを、と。じゃあ櫓(やぐら)を作ってみない?ということになって。

小林 (櫓の立体模型を見ながら)これもまたすごいね!

森本 みんなでスケッチしたものをコラージュしたんです。橋とか、魚の大群とか。鹿とか鳥居とかね。この紙の模型をラフスケッチとして、ぜひこれを、あの魚のオブジェみたいに、拾ってきた貝や流木などで作れたらすごくいいなと思ってるんです。この周りで盆踊りを踊ったらすごく楽しいですよね。みんなで紙の人形を作って置いてみたんですよ。ほら、小林さん人形もいますよ(笑)。

小林 本当だ(笑)。なんか、もう、音が鳴ってくるみたいな気がするね。生の太鼓とかパーカッションとかもよんでさ。地元の方々の伝統の唄なんかも入れてもらって、「盆踊り」をみんなで作れたりしたらいいよね。

森本 リボーン踊りですね。

小林 いいね(笑)。今回、子どもたちが主体になってどこまでどんなアイデアが出てくるのか、想像もつかなかったけれど、本当にいいものが生まれて。子どもたちのエネルギーみたいなものに圧倒されました。この後は一旦大人が引き取って、現実的にどこにどうやって設置するのかなどを決めることになるわけだけれど、実際にまた作品づくりがはじまったら、子どもたちに主体となってもらうことになるわけだけど。こうやって大人も子どもも一緒になって取り組めるというのはすごくいいことだし、多くの人に見てもらいたいね。どんな展開になるのか楽しみだね。

森本 本当に楽しみです。

*この対談は2017年7月に行われました。