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民泊新法対応について

民泊新法に関する届出について

まずは届出が必要です。

民泊新法(住宅宿泊事業法)に基づき、民泊を行うためには、届出を行う必要があります。届出の際には、「民泊新法でなにが変わるの?」で解説したとおり、特段の要件審査はありませんが、無用なトラブル等を避けるため、住宅宿泊事業者(ホスト)が届出住宅を民泊として利用する権限を持っているのかどうかを念のために確認することになっています。具体的には、①届出住宅が借家である場合には、大家さんの承諾書(転貸承諾書)、②届出住宅が分譲マンション(区分所有建物)である場合には、管理規約等の提出が必要となります。届出住宅が、分譲マンションであり借家である場合は、いずれの書面についても提出が必要ということになります。

①届出住宅が借家である場合

届出住宅が、持ち家ではなく借家の場合、賃貸人が、住宅宿泊事業者(ホスト)による民泊営業(転貸)を承諾していることを確認できる書面を提出する必要があります。当該住宅についての賃貸人・住宅宿泊事業者(ホスト)間の賃貸借契約書に、転貸を承諾する旨の規定があれば、賃貸借契約書だけを提出すれば足ります。転貸の可否についての規定がない場合や、転貸を禁止する規定がある場合には、民泊の実施について、賃貸人の理解を得て承諾してもらう必要があり、届出の際には、賃貸人の承諾を得ていることを証明する書面(承諾書)の提出が必要です。承諾書については、「私は、届出人が、○○に所在の物件において、住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業を実施することについて、承諾します。」といった内容の書面に賃貸人の署名・捺印をもらうことで足りると思われますが、その具体的な記載事項については、今後、ガイドライン等により示されることになると思われます。なお、届出住宅が転貸物件(所有者〔賃貸人〕→賃借人兼転貸人→届出人〔転借人〕)である場合、直接の貸主である賃借人兼転貸人からだけでなく、所有者たる賃貸人からも承諾書を取得して、それぞれ提出する必要があります。

したがって、借家を用いて民泊を行うことをお考えの方におかれては、まずは、賃貸借契約を確認いただく必要があります。賃貸借契約に、転貸を承諾する旨の規定がない場合、民泊の実施について賃貸人等の理解を得て、承諾書に署名・捺印してもらう必要がありますが、賃貸人等の考え方次第では、住宅宿泊事業法に基づく民泊の実施ができない場合があります。

②届出住宅が分譲マンションである場合

届出住宅が、分譲マンション等の区分所有建物の一室である場合、住宅宿泊事業者(ホスト)による民泊営業が、管理規約(建物の管理使用に関する区分所有者間のルールを定めたもの)に違反しないことが確認できる書面を提出する必要があります。

管理規約に民泊を認める規定があれば、その管理規約を提出すればよいのですが、多くのマンションでは、これから施行される民泊新法に基づく民泊を許容するのかどうかについて、管理規約の文言上は明確となっていません。管理規約上、民泊の可否についての明確な規定がなく、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」といった規定しかないような場合には、マンション管理組合に民泊新法に基づく民泊を禁止する意思がないことを確認したことを証する書類の提出が必要となります。マンション管理組合に民泊新法に基づく民泊を禁止する意思があるかないかをどのように判断するかや、その確認の方法、提出が求められる書類の具体的な内容については、今後、ガイドライン等により示されることになると思われますが、禁止する意思の存否については、管理組合総会や管理組合理事会の決議内容を見て判断することになると思われます。例えば、管理組合理事会において、次期管理組合総会において、民泊新法に基づく民泊を禁止する旨の管理規約改正議案を提出する旨決議されている場合、マンション管理組合に民泊新法に基づく民泊を禁止する意思が「ある」と判断することになります。分譲マンションについて届出を行なう場合は、このような決議の存否を確認しておく必要があり、確認の上で、存在しないことが確認できた場合には、「○○マンション管理組合において、民泊新法に基づく民泊を禁止する意思がないことを確認したことを証明します。」といった内容の書面に自ら署名・捺印して、届出書類として提出することになると思われます。

なお、管理組合に民泊を禁止する意思があることを知りつつ、上記のような書面を作成して届出を行なった場合には、虚偽の届出をした者として刑事罰の対象となる可能性がありますので、ご注意ください。

国土交通省は、2017年8月、マンション標準管理規約を改正し、民泊新法に基づく民泊を許容する場合と禁止する場合の双方のモデル規定を提示しました。各マンション管理組合においては、この改正マンション標準管理規約を踏まえ、管理規約上、民泊の可否を明確にしておくことが望まれます。

年間180日を超えて営業はできません。また、2ヶ月に1回、営業日数等の報告が必要。

届出が受理されましたら、晴れて届出住宅において民泊営業を開始することができます。しかし、民泊新法は、施設が「住宅」であることを理由に特例的な取扱いを認めるものであるため、届出住宅を常に宿泊施設として利用することは認められず(もはや「住宅」とは言えなくなるためです。)、年間営業日数(宿泊客を宿泊させた日数)を180日以内とすることが大前提とされます。180日を超えると、旅館業法違反として罰則が科される可能性があります。

「180日」の計算方法についてですが、毎年4月1日正午から翌年の4月1日正午までの1年間を計算期間とし、正午から翌日の正午を「1日」としてカウントすることになります。つまり、午後3時にチェックインして翌日午前11時にチェックアウトした場合、暦の上では2日間ですが、この「180日」の計算においては、あくまで1日としてカウントすることになります。

各届出住宅での営業日数(宿泊客を宿泊させた日数)については、2ヶ月ごと(偶数月の15日まで)に自治体に報告する必要があります。報告を怠った場合や、虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金刑に科される可能性がありますので、日数を適切に管理のうえ、遅滞なく自治体に報告するようにしてください。なお、この2ヶ月ごとの報告の際には、営業日数に加え、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の宿泊者数の内訳も合わせて報告する必要があります。

自治体により、民泊を実施できる期間が制限されることがあります。

届出住宅における民泊営業は、180日の範囲内であれば、原則、いつでも実施できますが、例外的に、自治体が、条例で、区域毎に民泊を実施できない期間を指定して制限することが認められています。届出住宅の所在場所によっては、民泊を実施できない期間が設定されることもあり得ますので、ご注意ください。

なお、自治体は、このような制限を限定なく自由に行なえるわけではなく、法令上、民泊に起因する騒音の発生等による生活環境の悪化を防止することが「特に必要な場合」に限って制限できることとされていますので、相当な理由がない限りは、大幅な限定はできないものと思われます。

営業行為にあたり遵守すべき事項と住宅宿泊管理業者への委託義務

民泊営業に当たっては、概要、以下の事項を遵守する必要があります。

  • ①衛生確保のため、宿泊者1人あたり3.3平米以上を確保し、定期的な清掃と換気を行う。
  • ②安全確保のため、非常用照明器具の設置、避難経路の表示等を行う。
  • ③外国人宿泊者の利便性等の確保を図るため、外国語により設備の使用方法に関する案内等をする。
  • ④宿泊者名簿を備え付けて3年間保存する。外国人の場合、国籍、旅券番号も宿泊者名簿に記載する必要あり。
  • ⑤宿泊者に対して、騒音防止、ごみ処理、火災防止のために配慮すべき事項等について、施設にそれらの事項を記載した書面を備え付ける等して説明する。
  • ⑥周辺地域の住民からの苦情処理。
  • ⑦プラットフォーマーを活用する場合、登録を受けた旅行業者又は住宅宿泊仲介業者に委託しなければならない
  • ⑧届出をした民泊施設であることを示す所定の標識を公衆から見やすいところに掲示する。

これらの義務のうち、①から⑥の各事項については、いわゆる家主同居型(ホームステイのような場合)で居室数が5部屋以下のものや、届出住宅と住宅宿泊事業者(ホスト)の自宅が同一建物、同一敷地内にあったり、隣接している場合であり、かつ、居室数が5部屋以下で管理上支障がないような場合を除き、登録を受けた住宅宿泊管理業者(代行業者)に、全て、委託する必要があります。

なお、普段、住まれている自宅で民泊を行う場合であっても、旅行や出張により、宿泊客の滞在期間中ずっと不在とするような場合は、家主在住型ではなく、家主不在型に当たることになり、住宅宿泊管理業者(代行業者)への委託が必要となりますので、ご注意ください。

もっとも、住宅宿泊事業者(ホスト)が自ら住宅宿泊管理業の登録を取得することも可能です。家主不在型の場合であっても、住宅宿泊事業者(ホスト)が自ら住宅宿泊管理業の登録を取得している場合、①から⑥の業務を他の管理業者に委託する必要はありません。

所得税について

住宅宿泊事業者(ホスト)が個人の場合で、民泊により所得が生じた場合、勤務先からの給料があり、それ以外の所得(民泊による所得を含む)の合計が20万円である場合等には、確定申告の上、所得税を納税する必要がありますので、税理士等に相談いただき、必要に応じ適切に納税してください。

弁護士 谷口和寛(弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所)

弁護士 谷口和寛(弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所)
平成26年5月から平成28年4月まで任期付公務員として観光庁観光産業課の課長補佐として勤務。旅行業、宿泊業、民泊など観光産業の法務を担当し、「民泊サービスのあり方に関する検討会」の事務局、「イベント民泊ガイドライン」、「OTAガイドライン」、「障害者差別解消法ガイドライン(旅行業パートのみ)」、「受注型BtoB約款」の企画・立案を担当。平成22年3月東京大学法科大学院卒業、平成23年12月弁護士登録。