スペシャル対談TOHOKU みんなの GOODS デザインの力でできること

人と人とのつながりを基本に、地域の課題を地域に住む人たちが解決するための「コミュニティデザイン」に携わる山崎亮さん。東北の被災地を含む全国各地を駆け回り、常時80 を超える地方再生プロジェクトに取り組んでいます。そんなコミュニティデザインの第一人者である山崎亮さんと、「TOHOKU みんなのGOODS」アートディレクター・松下見による対談をお届けします。

被災地支援に求められるソフト面でのサポート

松下:「TOHOKU みんなのGOODS」は、Tポイントが2011年から続けて いる東日本大震災の被災地支援活動「T カード提示で被災地の子どもたちに笑顔を。」の一環として企画したものです。2013 年度は福島県相馬市に子どもたちのための屋内型の遊び場を建設する予定で、そのポイントマッチング寄付の商品として、福島県の織物工房や縫製工場の方々と一緒に刺し子織りのグッズを開発しました。

山崎:僕が代表を務めるstudio-L でも、東北の被災地のコミュニティづくりのお手伝いをしています。被災地は今、ハードの復興は進んでいるけれど、 その上で人々がどんなコミュニティをつくるかは後回しになっている状況です。ハードだけでなく、ソフトをみんなが応援していく仕組みをどう作って 行くのかを考えなくては。被災地で働く人たちがお金とモノを回せる仕組みをどう作るのか、他の地域とどのようにつながっていくのかといったことをサポートする役割が必要だと思っています。

松下:私たちも被災地に何度も足を運んでいますが、コミュニティの分断は大きな課題だと感じます。相馬市に建設予定の屋内型の遊び場についても、 子どもたちが安心して遊べる場であると同時に地域の方々のコミュニティの場にもなればと考えています。これまでの児童館や遊び場の建設でも、建築家の伊東豊雄さんと一緒に現地に出向いて、公民館で行政の方をはじめ、地域に暮らすお母さん、子どもたち、おじいちゃん、おばあちゃんたちと話をすることを大切にしてきました。

山崎:僕はよく「コミュニティデザイナーというのは、人と人のつながりをつくる仕事です」と説明するんですけれど、モノをつくらないデザイナーな んですね。元々は建築の仕事をしていた僕がモノをつくらないデザインへと方向転換するきっかけになったのが、1995 年の阪神・淡路大震災でした。神戸で震災を経験して、復興というのは被災した人と人が「まぁつらいことあったけれど、一緒にやっていこうや」と思うところからスタートしていくしかないと思ったんです。瓦礫になったまちで残っていたのは人のつながりだったし、信じられるのはコミュニティの力だった。復興を進めるには、そうした人と人とのつながりを作る役割が誰か必要なんじゃないかと思って、 そういうことを仕事にしたいと考えたんです。でも当初はコミュニティデザイナーなんて仕事自体も日本になかったし、どうすればいいかわからなくて。95年の震災後からそうした気持ちを持ち続けていましたが、独立してstudio-L という会社を立ち上げるまでに10年かかりました。それから6年後に東日本大震災が起きたわけですが、今回はぶれることはなかったですね。studio-L として続けてきたコミュニティづくりの面から被災地復興のお手伝いをしていきたいと考えています。

「美しさと共感の力」を社会的課題の解決に生かす

松下:T ポイントでは震災直後から被災地支援活動に取り組んできましたが、時間の経過とともに一般の方の被災地への関心が低くなりつつあるのを感じ ています。「TOHOKU みんなのGOODS」を企画したのは、プロジェクトを通じて被災地への注目度を高めてもらえたらという想いからです。また、商品を購入していただくことで、被災地の現状を知ってもらえればとも考えています。

山崎:そうした活動は必要だと思いますね。僕は、デザインとはある社会的な課題に対して、美しさと共感の力で人々にある種の行動を促す行為だと思うんです。これまでのデザイナーは、美しさと共感の力を「モノを買ってもらう」というアクションにつなげるために一生懸命やってきたわけです。けれど、それを「被災地を支援する」という方向に向ける力も持っているはずなんですね。「TOHOKU みんなのGOODS」を見ると、そうしたデザインのもつ力を発揮していくことの重要性がよくわかります。

松下:そうですね。「TOHOKU みんなのGOODS」を気に入ってくれた人が、商品の背景に興味をもってくれたらいいですね。

山崎:みんながかわいいと思って手にとってくれて、「これは何だろう」と説明が書いてあるリーフレットを読んでくれる。そのためにはやっぱりビ ジュアルやクオリティも大事で、商品がかわいくなかったり、本物でなかったり、ダサかったりしたらダメ。震災の記憶が遠のいてきた時期だからこそ、デザイナーが力を発揮していくことが大事ですね。その一方で、コミュニティデザイナーとしては、全国一律に納めている税金を被災地にちゃんと回すことも必要だと考えています。もちろん税金をただ落とすだけではなく、どのように使うかということにクリエイティビティをもつこと。ハード面での復興と同時にソフト面での復興も行って、両輪を走らせていくことが求められています。

made in Fukushima から広がる可能性

松下:今回のプロジェクトでは、福島県相馬市に子どもたちのための屋内型の遊び場を建設するのが目的なので、「TOHOKU みんなのGOODS」の商品開発に関してもmade in Fukushima にこだわりました。

山崎:そうですね、made in Fukushima として地域の人たちと一緒に商品を作ったというのは大きいと思います。せっかく地域を応援しようとしてい るときに、商品がよその所のものだとなんだってなっちゃいますから。

松下:「TOHOKU みんなのGOODS」では、東北の手仕事を活かしたものを作りたいと考える中で、「刺し子織り」に出会ったんです。小物類に使って いる「刺し子織り」の生地は、伊達市の三和織物さんと一緒に作りあげました。これまで伝統的な柄だけを織ってきたということで、オリジナルの柄を織り上げていただくためにずいぶん苦心してくださいました。

山崎:僕は不勉強で刺し子ってあんまり知らなかったんで、さっき「刺し子」で画像検索してみたんです。その画像を見て、かわいいなって思いました。 たぶん1980 年代頃にはあれがダサいと思われた時代もあったのかもしれませんが、今の人ならかわいいって思うでしょう。あとは、古典的ではない柄と刺し子織りを組み合わせたところが新しい。地域の伝統や、ある種の愛着をみんなが持っているものを昔ながらのままにするのでなく、新しいカタチにしていくのが、デザイナーやクリエイターの役割だと思います。

松下:「刺し子織り」の生地を小物として作り上げるのは、喜多方市のサロンジェさんという縫製工場に依頼しました。三和織物さんとサロンジェさん とは、震災がきっかけで仕事をともにするようになったそうで、そうしたご縁のあるところにお願いできたのも嬉しかったですね。

山崎:ネイティブアメリカンの言葉で「お腹をすかした人には、魚を与えるのではなく、魚のとり方を教えるべきだ」というのがあります。コミュニティデザインの仕事では、地域に行って「こういうふうにすれば地域が元気になりますよ」と教えて帰って来ても仕方ないんです。その人たち自身が地域にイノベーションをおこせるような仕組みや組織をつくって帰ってくることが必要なんです。そういった意味で、「TOHOKU みんなのGOODS」では、地域の人たちと一緒にものづくりができたことが大きいですね。きっと三和織物さんもサロンジェさんも、T ポイントさんとあらたな取り組みをする中で意識改革があったと思うんです。「これができたから、次はあれもできるかもしれない」というような、地域の人が次のアクションにつながるような支援ができたのがすごくいい点だと思います。

山崎 亮

コミュニティデザイナー

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、設計事務所勤務を経て 2005年〈studio-L〉設立。京都造形芸術大学教授。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。2014年度4 月から東北芸術工科大学に新設される「コミュニティデザイン学科」の学科長を務める。著書に『コミュニティ デザイン』(学芸出版社)、『コミュニティデザインの時代』(中公新書)などがある。

松下 見

株式会社Tポイント・ジャパン
アートディレクター

1965年東京都生まれ。1997年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社し、 2009年よりT ポイントのアートディレクターを務める。2011年震災直後より「Tカード提示で被災地の子どもたちに笑顔を。」プロジェクトに従事。

3色の小物類を見る山崎さん。「僕はくり色のハンカチがいちばん気に入りました」

「刺し子織り」でモノグラムのような柄を織り上げる難しさを説明する。

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  • 復興デパートメント
  • Tカード提示で被災地の子どもたちに笑顔を。
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